"Standard Operating Procedure" 2

この映画について前回書ききれなかったので書き直しました。

記念写真を撮るふりをして虐待の証拠写真を撮り続けたハーマン元技術兵。
写真クレジット:Sony Picture Classics

4年前に世界中のメディアで流れた米軍によるイラク人捕虜虐待の写真は忘れられない。あれらの写真に映っている兵士は何を思い、どのような経緯で写真は撮られ、米軍はいかにして事件を処理したのか。
このドキュメンタリー映画は、あの写真に関わった若い兵士たちへのインタビューを中心に、米軍の実態とそこで生きる女性兵士/軍人たちの姿を浮き彫りにしている。

結果的に処罰を受けたのは、「7つの腐ったリンゴ」と呼ばれた下級兵士7人だけ。彼らは実刑判決を受け、階級を落とされた後に軍を追われた。虐待は自由意志という判断。が、そうだろうか。

「捕虜を裸にしてパンティをかぶせたり、眠らせないなどの行為は刑務所に着任した時からすでにあった」と兵士たちは言う。CIAや民間の軍事会社から送り込まれた尋問スペシャリストたちによって始められた「尋問」スタイル。捕虜の多くは彼らがどこからか連行し、名前も収監記録もない状態だったという。それが写真に映っていないアブグレイブの環境だった。
今回、処分を受けた者の半分が女性というのも特徴的だ。

写真に頻繁に登場する小柄な女兵士をを覚えているだろうか。リンディ・イングランド上等兵だ。彼女は当時20歳、14才年上のC. グレイナー技術兵(10年の刑で現在服役中)に熱を上げ、「彼の言う通りにポーズを取っただけ」と言う。軍法会議で3年の実刑

ところがグレイナーは二股をかけていた。彼と後に結婚したメーガン・アンブール技術兵も虐待を報告しなかった罪を問われ罰金刑だ。

写真を撮ったサブリナ・ハーマンは6ヶ月の実刑。同性愛者である彼女は、本国にいる妻に虐待の実態を書き送り「何か大変なことになるのではないか」と不安を吐露していた。


犬を使ったり、睡眠や食事制限などの「尋問」を指示したのは軍上部だと証言するカーピンスキー元准将。
また、事件発覚当時から虐待を知らなかったと言い続けている刑務所の責任者ジャニス・カーピンスキー准将は停職処分と大佐への降格。この映画の中で最も怒りをあらわにしている。彼女は、サダム・フセインを探し出すことが至上命令だった当時、進駐軍は何をしても良い状況に追い込まれていたと振り返る。

「ところが、尋問から何も掴むことはできなかった」と皮肉まじりに言い、ラムズフェルドから始まる一連の上司たちの名前を上げて、彼らにこそ責任があると指弾している。

男達のゲームにノセられた恋敵の若い女二人、その記録を取った同性愛者の女、責任だけ取らされたエリート女。社会の縮図を見る思いではないか。

米軍にとってイラク戦争最悪の汚点となった事件だが、若い女を使って事件をわい小化し、管理していた女を罰して終わりとしたのは実に政治的だ。女に軍隊は指揮できない、女がいるから風紀が乱れる、という「女難」プロパガンダの道具に利用し、拷問虐待を指示した上部はまんまと逃げたのである。「軍隊は強烈な男の世界」と顔を歪めて言ったイングランドの言葉が忘れられない。

ちなみに題名の"Standard Operating Procedure"(以下SOP)とは犯罪と認められない標準作戦手順のこと。公開された写真のほとんどはSOP、ただの尋問と判断された。政府高官が「テロリストにはジュネーヴ条約は適応しない」と明言する国だ。何をしてもSOPだろう。

監督は"A Thin Blue Line" やアカデミー賞を受賞した"Fog of War" などで知られる社会派のベテラン、エロール・モリス。

上映時間:1時間57分。日本での上映は未定。