"Jane Eyre"(邦題『ジェーン・エア』)


ジェーン・エア』写真クレジット:BBC Films, Focus Features
1847年にシャーロット・ブロンテが書いた小説『ジェーン・エア』を、『闇の列車、光の旅』でデビューした日系のケイリー・ジョージ・フクナガが監督した。前作で非凡な才能を見せたフクナガの第二作。あまりに良く知られた話なので物語への興味よりも、フクナガがどのようにこの古典を見せてくれるのか、というところに期待を持った。
話を簡潔に書こう。孤児院で育ったジェーン(ミア・ワシコウスカ)が、ソーンフィールドの館で家庭教師として雇われ、館の主である貴族のロチェスターマイケル・ファスベンダー)に求婚される。ところが結婚式の当日、彼の秘密が暴かれジェーンは失意のうちに館を後にするのだが…。

小説が書かれた当時は、女性が男性に愛を告白するなど考えられなかった時代で、自分の考えを率直に語り、人間として誇りを忘れなかった女性主人公に大きな反響が集まったようだ。日本でも多くの訳者によって翻訳され読み継がれてきた小説で、何度も映画化されている。

1944年に製作されたジョーン・フォンテインとオーソン・ウエルズ主演のものが有名で、二人の恋の行方と館の謎のサスペンスが中心となるゴシック・ロマン風の作品。比べると本作は、前者でカットされていた館を去った後の物語も加わって原作に近づき、意志の強いジェーンの生き方に焦点が当てられている。

これは原作の魅力の一つであり、また英国の気鋭女性脚本家モイラ・ブッフィーニの脚本に負うところが大きいだろう。帰る家を持たないジェーンが、雇い主である気難しいロチェスターに対して一歩も引けを取らずに向き合う姿は、彼女の矜持を感じさせて清々しい。フォンテイン版のジェーンはどこか控え目で19世紀的な女性を感じさせるが、本作のジェーンは主張的で明らかに21世紀的である。

ダービーシャーののどかな田園風景や地味だが風合いのある衣装、シックで凝ったインテリアなどを映し出した映像が美しく、語り口も滑らかで、見飽きることのない佳作と言える。ただ気になったのは、ジェーンとロチェスターの二人が惹かれ合っているように見えなかったこと。ワシコウスカの恋の情感に乏しい表情と、陰のある男の色気を漂わせたファスベンダーのミスマッチのせいだろうか。館を去った後出会う牧師(ジェイミー・ベル)の方が、若く硬質なジェーンには相応しい相手に思えてしまい、ちょっと困ってしまった。

また、館の家政婦としてジュディ・デンチがジェーンを助けるのだが、もう少しヒネリを持たせた方がデンチが演じている意味があるのではないかと不満が残った。

フクナガ監督は確かに大きな才能を感じさせる人だが、古典の枠に縛られ彼らしい表現が出来なくなってしまったような気がする。次回は『闇の列車…』のようなオリジナリティのある作品で力を発揮して欲しい。

上映時間:2時間。サンフランシスコは18日より上映開始予定。
ジェーン・エア』英語公式サイト:http://focusfeatures.com/jane_eyre