“Nightcrawler”(原題『ナイトクローラー』)


ナイトクローラー』写真クレジット:Open Road Films
ルゥ・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)は、ロサンゼルスで窃盗をしながら職探しをする男。ある晩、交通事故現場を撮影し、その映像をニュース番組に売っているジョー(ビル・パクストン)と出会い、自分にも出来ると思い立つ。
質屋で中古カムコーダーとラジオ・スキャナを購入。警察電波を傍受しては、事故や犯罪現場へ駆けつける日々が始まり、ついに事故現場のスクープ映像を撮影をする。その映像をニュース番組のディレクター、ニナ(レネ・ルッソ)に見せると、彼女はそれを買い上げ、見込みがあるとルゥを励ます。
自信をつけたルゥは夜のロスを走り回って無残な現場映像を撮影し、低迷する視聴率にあえぐニナはそんな彼の映像を買い続けていく。そしてルゥは、さらに刺激的な映像を求め撮影者の一線を越えていく。

薄気味の悪い男を主人公に、時代の一面をバサリと切り取った心理サスペンス映画の秀作だ。本作を観ながら何度も『タクシー・ドライバー』の主人公トラビスを思い出した。あの映画から約40年、現在のトラビス=ルゥはさらに病み、時代はそれ以上に病んでいるようだ。

ベトナム帰還兵トラビスはルゥと比べると掴みやすい人物であった。ルゥの正体は最後まで分からない。過去に何をしたのか、なぜ一人なのか、孤独さえ享受している。頭脳明晰で理路整然とビジネストークを早口でまくし立るが、まったく怪しい。そんな男が飢えたハイエナのように事故や犯罪の後を追い回し、夜の闇という海の中で水を得た魚となって本性をむき出していく。

そんな男を支えるのは、視聴率の獲得のために惨たらしい映像も買い上げるニュース番組の現状、報道の劣化、TV視聴者の貪欲な欲望…。ルゥの背後に犯罪や事故現場をケータイで撮影する無数の人々が見える。誰もが無意識にカメラを向ける、その異様さにも慣れてしまった。ルゥだけが異様なのか。この先に何が待っているのか。

20パウンド減量し、醜悪な時代の空気を表情に刻み込んだギレンホールと、陰惨な映像に目を輝かせるTVディレクターを演じたルッソが共に会心の演技を見せて、本作に深い陰影を与えている。

脚本/監督はダン・ギルロイ、元俳優で『ボーン・レガシー』などの脚本を手がけてきたが監督は本作が初めて。奇妙に明るいエンディグがダークでコミカル、格別の味わいで、脚本が抜群の出来栄えであった。70年代を代表する『タクシードライバー』や『ネットワーク』に肩を並べる時代性を持った優れた映画作品として、映画ファンにお薦めしたい。

上映時間:1時間57分。全米のシネコン等で上映中。
“Nightcrawler”英語公式サイト:http://nightcrawlerfilm.com/