"Trainwreck"


"Trainwreck"写真クレジット:Universal Pictures
男性雑誌の編集者エイミー(エイミー・シューマー)は、父から「一夫一婦制は現実的ではない」と言い聞かされて育ったせいで、男と一夜だけのセックス以上の関係を持たないでいた。そんな彼女が、独裁的な編集長ダイアナ(ティルダ・スウィントン)から、スポーツ専門医アーロン(ビル・ヘイダー)の取材を任される。
プロレスラー(ジョン・シナ)と付き合ったことはあるがスポーツ音痴のエイミー。トンチンカンな質問をしながら次第に彼と意気投合し、自分でもありえない恋心に気づいて大慌て。真剣な交際を願うアーロンから逃げ回り、天然ボケの同僚(ヴァネッサ・ベイヤー)や結婚し一児もいるしっかり者の妹(ブリー・ラーソン)に意見を求めるが。

スタンダップ・コメディアン出身でTVでコメディ番組を持つ人気抜群のシューマーが、自らの体験を元に脚本を書き主演した恋愛コメディ。かつては男の専売だった一対一の安定した関係へのフォビアだが、そんなフォビアを持つ若い女性の心情と戸惑う周囲を、シャープなユーモアに包んで描き出し、フェミニストのシューマーらしさが際立つ作品だ。

爆笑連続のコメディを期待するとハズレるが、作品のコアには自分の実感への正直さがあり、同時に時代を嗅ぎ取る優れた能力を感じさせる希少なコメディだった。

女が自分の男性体験やセックスについて率直に語るのは、かなり前から米国の女性スタンダップの領域でもあった。チェルシー・ハンドラーやサラ・シルバーマン、最左翼のマーガレット・チョーなどの過激なトークには、アケスケなエロ話とは違う自分への率直さと勇気が感じられ、女が性を語る言葉を獲得するプロセスに彼女たちが大きく貢献してきたように思う。

万引き逮捕の経験や、人気トークショーで元カレとのセックスについて平然と語るシューマー。自分を笑い飛ばすジョークも多いが、自虐的でないのが彼女の秀でた持ち味だ。
彼女を太めとバッシングする傾向も強くあるようだが、そんなことで後退する彼女ではない。つい最近も人種差別発言を指摘され、間違えから前進したいという内容の誠実なコメントを出していた。こういう若い女性が脚光を浴びる時代は悪くない気がする。

監督は『40歳の童貞男』など男たちのちょっとおバカなセクシャル・コメディでヒット作を連発してきたジャド・アパトー。本作は初めて自作脚本ではなく、シューマーのトークを聞いて彼女に脚本を書くように勧めたようだ。彼の他の作品と比べると演出のテンポがイマイチなのは、そのせいかもしれない。

上映時間:2時間4分。
"Trainwreck"英語公式サイト:http://www.trainwreckmovie.com/