“Anomalisa”(原題『アノマリサ』)


“Anomalisa”写真クレジット:Paramount Pictures
顧客サービスの専門家マイケル(デヴィッド・シューリス)は妻も子供もいるが、長いこと陰鬱な人生を送っていた。そんな彼が講演のためにシンシナティを訪れた際、昔自分が捨てた恋人との再会を試みるが、結果は無残なもの。陰鬱さは増すばかりだったが、ホテルの部屋に戻ると、廊下から女性の声が響き、彼は驚き勇んで廊下に飛び出す。
探し出した声の主は彼の講演を聞きに来たリサ(ジェニファー・ジェイソン)だった。劣等感の強い女性ではあったが、明るい声でマイケルに語りかけ、彼は瞬く間にリサに魅了される。

ストップモーション・アニメ(以下SMA)で描かれる中年男と若い女の出会いと情事。こんなありふれたストーリーをなぜ1日に2分しか撮影ができない手間ヒマの掛かるSMAで? そんな疑問は次第に氷解し、奇態なる世界へ引き込まれた。

本作で「フレゴリの錯覚」を初めて知ったのだが、誰を見ても同じ人物に見え・聞こえてしまうという妄想状態のことで、本作のキーはこの妄想にある。

脚本・監督は『マルコヴィッチの穴』『エターナル・サンシャイン』のチャーリー・カウフマンで、実に彼らしい奇想な物語で、こんな話を書けるのは彼だけだろう。元々は声だけで演じる戯曲として本作と同じキャストで上演された。その声だけの世界に肉体を与えるためにSMAを使い、マペットの非現実感とテーマをマッチさせた着想が卓抜している。

SMAの監督はデューク・ジョンソン、SMAの短編やTVアニメを手がけたきた駿才だ。
3Dプリンターを使ってマペットの顔を作り、アップに耐えるリアルな皮膚感や表情を再現。雨に濡れた夜の車窓や湯気で曇る鏡などの凝ったディテールを通して、男のグルーミーな世界を作り上げた。マペットのセックスシーンをリアルに見せるために半年を費やしたというやや偏執的な熱意は、カウフマンの奇想さと同質感があり、ベストのコラボだったように思う。

製作に当たっては誰もが出資できるキックスターで資金を集め、本年のアカデミー賞アニメーション部門で、子供向けでないアニメとして初めてノミネートされている。

上映時間:1時間30分。iTune などでストリーミング配信中。
“Anomalisa”英語公式サイト:http://www.anomalisamovie.com/