The Shipping News

ピューリッツァ賞を受賞したベストセラー小説の映画化。ハリウッド映画にしてはめずらしく文学的な香りを持った秀作だ。
妻ペタル(ケイト・ブランシェット)を失い、一人娘のバニーを抱えて失意のどん底にいた弱気な中年男クォイル(ケビン・スペイシー)の元に、叔母(ジュディ・デンチ)が訪ねてくる。彼女は何か秘密を持っている様子だが明かさず、クォイルに家族の生まれ故郷ニューファンドラウンド島に帰ろうと勧める。

島の小さな新聞社で記者の仕事を得た彼は、未知の漁村で初めて自分の家族の過去を知っていく。海賊の血を引いたクォイルの家系には忌わしい事件ばかり、彼は自分を虐待した父と身勝手で身持ちが悪かった妻の記憶に苛まれる。その一方でクォイルは、夫に死なれ一人息子と暮らす若い母親ウェイヴィー(ジュリアン・ムーア)と親しくなっていくのだが、彼女にも誰にも語れない過去があった。

霧に包まれ粉雪舞う寂しい漁村を舞台に、暗く苦い過去を持った人々の物語が語られる。しかし、全編にちりばめられたユーモアが物語を軽やかにし、母を失い傷ついた娘のバニーに少女らしい想像力を持たせることで、重くなりがちなドラマのトーンに幻想的な広がりが生まれた。スエーデン出身の監督のラッセ・ハウストレムは、『マイ・ライフ・アズ・ドック』や『ショコラ』等でも子供の持つ不思議な力を引き出すことが上手かった。この作品にもハウストレム独特の人間への優しい視線が温かく漂い、心地よい。

人里はなれた岩場に立つ廃家同然のクォイル家の<緑の家>が、人生の廃残者のように生きてきたクォイル自身を象徴する。強風に軋み揺れる穴だらけの家はクォイルの空しく苦い人生そのものだが、彼がその家に住むことで初めて自分の人生に向き合うという仕掛け。家の倒壊がクォイルの再生を表現するエンディングの映画的提示が爽快だ。
演技力には定評のある俳優たちの競演も見どころの一つ。それぞれに期待以上の好演をみせて楽しませてくれる。