"Volver"


写真クレジット:Sony Pictures Classics

女たちの豊かな胸や大きなお尻をおく面もなく眺め、感情的な行動をする彼女たちをうれしそうに見ている視線がある。半世紀前にソフィア・ローレンが出ていたイタリア映画がこんな風だった。ローレンは当時セックス・シンボルと呼ばれたが、この映画に登場する女優たちはちょっと違う。ペネロペ・クルスが胸の谷間をのぞかせる場面がしばしば出てくるが、カメラの視線に性的なものはあまり感じられない。弟や息子が母親や姉に向ける眼差し、家族の女たちを惚れ惚れと見ている視線だ。
監督は『オール・アバウト・マイ・マザー』で注目を集めたスペインの異才ペドロ・アルモドバル。母と姉妹に囲まれて育った監督が、生まれ故郷のラ・マンチャを舞台に作り出したハチャメチャだが心優しい女たちの世界。ゲイの監督ならではの女性美、母性礼賛の映画だ。
物語は、苦労している姉妹の元に死んだはずの母親が帰ってきて、死の真相を明かし、母娘が和解するというもの。今でも昔ながらの近所つき合いを続ける女系3代祖母、母、娘に姉妹、幼なじみやご近所の女性が加わり、母を慕い、娘をかばい、互いを助けあう女たちの姿が、生き生きとコミカルに描かれていく。
とはいえ、アルモドバル監督の世界は生半可でない。放火や近親相姦、殺人などの忌まわしい事件が女たちに影を落し、父や夫たちの横暴と虐待が母から娘へと繰り返される悲劇の物語でもあるのだ。
英語圏の映画では精彩を欠いていたクルスだが、母国語の強みで真価を発揮し、汗みずくで死体を運んだり、穴を掘ったりの熱演。彼女がタンゴの名曲 "Volver"(「帰郷」の意)を哀感をこめて歌うシーンがきれいだ。
今年のカンヌ映画祭で彼女を含めた6人に主演女優賞が与えられた。確かにクルスは良かったが、共生する女たちを描いた映画なのだから、クルスを一人勝ちにさせるよりグループ受賞で正解。気の利いた計らいだ。
出演は他にカルメン・マウラ、ジョランダ・コボ、ローラ・ドゥエニャス、ブランカポルティージョなど。上映時間:1時間51分。サンフラシスコはクレイ・シアターなどで上映中。