"The Dead Girl"


写真クレジット:First Look Picture

ホラー映画のタイトルのようだがホラーではない。
若い女の他殺死体が発見され、その女と関わりのあった5人の女たちが登場する。ズドンと腹に打ち込まれた事件の衝撃を女たちはどのように受け止めたのか。5章からなる物語が濃い感情的密度を保ちつつ描かれる。

発見者ー母の罵声に耐えながら介護をする孤独なアーデンが、散歩の途中で死体を発見する。かつて経験のない町の注目を浴び、男に誘われる。

妹ー死体の女が15年前に失踪した姉ではないかと捜査を依頼するリアは、 姉の生存をかたくなに信じる母と対立する。

犯人の妻ー夫が連続殺人犯であるという証拠を見つけた妻ルースの選んだ驚くべき行動は…。

恋人と母ー殺された売春婦のクリスタには同業の恋人ロゼッタがいた。彼女を訪ねた母は、クリスタに幼い子どもがいることを知る。

死体の女ー義理の父による強姦から逃れて家出をしたクリスタは、離れて暮らす幼い娘に会いに行こうとしていた。

点描される5つ物語に大きなつながりはない。だが鋭いナイフで切り取られたそれぞれの断面から、この国で生きる女への暴力と孤独という暗闇が浮かびあがる。オリジナル脚本を書き、監督をしたカレン・モンクリーフは、暗闇に隠れた女たちの輪郭を鮮やかに描き出し、 映画作家としての才気を発揮。母との葛とうを抱えている女を登場させ、複雑にねじれる現代の母娘関係への視線も鋭く、女=被害者という図式を超えた肉厚な女性映画になっている。

見どころは、脚本にほれ込み出演している実力派俳優たちの競演。トニー・コレットブリタニー・マーフィー、マルシア・ゲイ・ハーデン、ケリー・ワシントンなど、短い出番の中で強烈な印象を残す演技をみせている。
名も知れない売春婦の死体は、毎日どこかの町で発見され、ニュースにもならず忘れ去られて行く。これもまた、世界で最も自由で恵まれているハズの米国女性の一面の真実なのだ。

上映時間:1時間33分。サンフランシスコは9日からルミエールで上映開始。