"Pan's Labyrinth"


写真クレジット:Picturehouse

牧神パンの迷宮に彷徨う少女のファンタジー、というと『千と千尋の神隠し』のようだが、この映画のムードは暗く陰鬱だ。1944年のフランコ政権下のスペインが背景。冷酷を極めたファシストの実態が、内向的な少女の鋭い感性と想像力を通して描かれる。凍りつくようなファシズムの恐怖をホラーの手法で見事に映し出した傑作だ。

人民戦線を壊滅させるために山の前哨基地にいる指揮官ビィダル(セルジ・ロペス)の元に、彼の子を身ごもった妻と連れ子のオフィリアがやってくる。冷めたい義理の父ヴィダルになじめず、長旅で病床についた身重の母だけを頼りに不安な思いを抱えるオフィリア。山の迷路の中で怪異な牧神と出会い、彼女が失われた地下王国のプリンセスだと知らされる。

王国復活のために牧神の導きで恐ろしい怪物たちと戦うオフィリアの幻想世界が、怪奇的な美に彩られて描かれる。一方、彼女の現実は、サディスティックな正体をむき出しにするヴィダルのために、陰惨な様相を増していく…。

オフィリアの幻想世界は、ビィダルの攻撃性、嗜虐性を直感した彼女の現実逃避であると同時に、実世界では母同様に非力な少女の、怪物的ヴィダル=ファシズムへの抵抗の現れでもある。人民戦線を助ける基地の家政婦(マリベル・ベルドゥー)が、無力な母に代わってオフィリアを庇護。二人はそれぞれにヴィダルに立ち向かう。ファシストに抵抗するのが少女と家政婦という設定が頼もしくもあるのだが、その実際はあまりに痛々しく身体が震えた。

監督/脚本は "Blade II" などのゴシック・ホラーの名手、メキシコのギレルモ・デル・トロフランコ政権のホラーを描くために何年も準備をした念願の一作だ。

メキシコは40年代以降、超現実主義の映画作家ブニュエルなど人民戦線側亡命者を多く受け入れた。彼らがメキシコの文化や映画界に与えた影響は大きく、多くを学んだという監督だ。去年話題になった"Babel" や "Children of Men" の監督もメキシコ人。スペインからメキシコに伝わった映画文化が、今大きな花を咲かせている。

上映時間:1時間52分。上映中。