"Evening"


写真クレジット:Focus Features
この夏期待の文芸映画。ヴァネッサ・レッドグレーブ、メリル・ストリープグレン・クローズトニ・コレットなどの豪華配役に、脚本は"The Hours" のマイケル・カニンガム、監督はホロコースト映画の傑作"Fateless"のラホス・コルタイ。最強のラインアップで描かれる、死を目前にした女性の回想記。現在と過去、夢と覚醒の間を行き来する凝った作りの女性映画だ。

主人公は末期ガンの病床にいるアン(レッドグレーブ)。彼女は若い頃に、親友ライラの結婚式のため瀟酒な夏のコテッジに招かれ、生涯忘れ得ない体験をする。一夜の激しい恋と深い悲しみを鮮やかに想い出すアン。

その記憶にうなされるアンを見守る2人の姉妹は、長年の確執を抱えている。うわ言でハリスという未知の男の名を呼ぶ母に衝撃を受ける妹ニーナ(コレット)。母には忘れ得ぬ恋人がいたのか? 後悔の人生だったのか?と自信のないニーナは自分に重ねる。そんな妹に「いつまで人生を先送りにしているのだ」と家庭を持つ姉(ナターシャ・リチャードソン)は苦言を呈するのだった。

それぞれが若さゆえの輝きと葛藤、失望を抱えて、アンの夢と覚醒の時に現れては消えて行く。そして、40年ぶりにライラ(ストリープ)がアンを見舞い、あの一夜について語り合う…。

名女優たちの競演に酔い、ロードアイランドの秀麗な景観に見とれたが、観終わってみると、すべては夢のごとし。アンの意識同様に朦朧としている。

原作はスーザン・マイノットのベストセラー小説。主人公の70年近い記憶を追う抽象的な文体の小説らしく、それを映画として再構築する難しさがあったのか。個別の点描は優れているのに、一つの映画作品としてのまとまりと情感に欠けていた気がする。

若き日のアンをクレア・デインズが溌剌と演じ、ライラの若い頃をストリープの娘マミー・ガマーが、またアンの娘役をレッドグレーブの娘リチャードソン、という二組の母娘が演じるなど、見どころも多いだけに名作未満で終わってしまったことが残念だった。

上映時間:1時間57分。6月29日より上映中。

英語公式サイト:http://www.focusfeatures.com/evening/