"SiCKO"


写真クレジット:Lionsgate, The Weinstein Co.

日本から来た人なら、当地の医療保険制度に疑問を持つ人は多いはず。会社の提供してくれる医療保険でもない限り、自分で民間の医療保険に加入しなければならないからだ。しかも、持病や既往症(きおうしょう)があるという理由で加入拒否される可能性がかなり高く、無保険の人は全米に4700万人もいる。
保険料の安いものだと年間のディダクタブルが数1000ドル。ほとんど病院に行かない私は、毎月保険料を払いつつ、毎年ディダクタブルの範囲での医療しか受けていないので、結局病院に行った費用はすべて自腹。なんのために保険に入っているのか分からない。

いつか大病をした時の「保険」のためではあるが、保険が保証する最上限額の100万ドルなどは大病になればハシタ金。肺炎で2週間ほど入院した友人には25万ドルの請求がきていたのだ。

書いているだけで怒りがこみ上げ、胸が悪くなってくる。何でこんな非人道的な制度が存続しているのか、という当然な疑問に、徹底的なツッコミを入れたドキュメンタリー映画が"SiCKO"だ。

監督は04年に世界中で大ヒットした『華氏911』のマイケル・ムーア監督。以来3年ぶりの最新作だ。6月末の限定公開後、好調に拡大公開され、観客の反応も「ぜひ人に推薦したい」と好評だ。

三人の子供を大学にやった経済力のある中年の夫婦が相ついで大病をし、保険の上限額を使い切ってホームレス状態になった話など、悲惨なエピソードを多く紹介している。

被保険者への医療費支払いを拒否すればするほどボーナスが増える保険会社内の仕組みや、莫大な利益を上げる保険会社から多大な政治資金を得ている政界との癒着、国民健康保険のあるカナダなどの国民優先医療の「羨ましい」実情などを見せながら、人命よりも利益優先の米国医療の実態をあばいていく。

ムーア監督独特の明快な対比や、権力の構造をマンガ的に見せる手法はここでもバクハツ。政治的問題を誰にもわかるような娯楽映画に仕上げてしまう手腕はいつもながら感心する。

作品中ある学者が、「経済的に安定した健康な国民は、知的な判断力を持つことができるが、反対に貧しく不健康な国民は怖れに囚われ、知的に物事を判断できない。だから、ほんのひと握りの支配層が多くの国民を簡単に支配できる」と言っていた。これこそが米国保険制度の根幹にある悪魔的意思なのだろう。

上映時間:1時間56分。サンフランシスコはカブキ、ヴォーグなどの他バンネス、センチュリーなどのシネコンでも上映中。

日本語公式サイト:http://sicko.gyao.jp/