"Trade"
メキシコシティの貧し気な路地裏。ロシア人ギャングが売春を仕切る。廃家にはポーランドから騙されて来た若い女性と、タイやメキシコから 拉致されてきた少年や少女が囚われている。行く先は米国。ネット上で競りにかけられ、性的奴隷として2〜3万ドルで売られるのだ。
人身売買のグローバリゼーションとeBay化という、信じられ ないことが起きている。その実態に迫ったのがこの劇映画だ。
こういう映画は描き方が難しい。少女たちがどんな酷い体験をしたのか を描かなければ実態に迫れない反面、視点を誤ると見せ物化してしまう。これでは犠牲者への二重搾取だ。
そんな危険を避けるために、物語 の中心を、妹を誘拐されたメキシコの少年と、娘を売られてしまった米 国の刑事(ケヴィン・クライン)の追跡行においている。少女たちの体験は、被害者への配慮が感じられる間接表現で描かれ、作り手の良心が感じられた。
醜い犯罪に立ち向かう兄と父には、それぞれ自慢出来ない過去がある。その後悔に身を焼かれながら消えた少女たちの足取りを追う二人。組織の運び人の男にもかすかな罪悪意識が見える。男の業の深さだろうか、エンディングは苦く、因果が巡っていく。
脚本は、ジャーナリストのピーター・ランデズマンがニューヨーク・タ イムス・マガジンに寄稿して注目を浴びた記事を下地に、"The Motorcycle Diaries" のホゼ・リベラが書いた。少年と中年男の間に育 つ友情をリベラらしい温かみのあるユーモアで描き、重くなりがちな題材を軽くしている。
作品の大きな魅力は、13才の妹を演じたポーリナ・ゲイタン(写真)、妹思いの兄を演じたシーザー・ラモス、悲運を背負った若い母を 演じたポーランド女優アリシア・バヒレダなど、米国では無名の若い俳 優たちの熱演だ。彼らが登場するだけで画面が息を吹き返し、悲劇の様 相があらわになる。
監督は27才のドイツの新鋭マルコ・クロイツ パイントナーで、キャスト/クルー共に若くグローバルな作品でもある。
ちなみに、米国に売られる子供や女性たちは毎年10万人、全世界では80万人。実数はさらに多いはずで、売られた子供たちのその 後はほとんど不明という。やりきれない。
上映時間:1時間53分。9月21日より上映開始。
英語公式サイト:http://www.tradethemovie.com/