"Silk"


写真クレジット:Picturehouse

イタリアでベストセラーになったアレッサンドロ・バリッコ(『海の上のピアニスト』)原作の同名小説の映画化である。
監督はカナダのフランソワ・ジラール(『レッド・バイオリン』)、日本や英国から豪華なキャストが集められた国際色豊かな作品。見た目にもきれいなのだが…。

19世紀中頃の南フランスの田舎が舞台。絹紡績を始めた事業家に見込まれたジョンクール(マイケル・ピット)が、日本に蚕の卵の買い付けに行き、そこで美しい女に出会う。彼女は寒村を根城(ねじろ)に密輸をしている首領ハラ(役所広司)の女で、ジョンクールに謎の付け文を渡し、彼を魅惑する。

帰国後も読めない付け文を見つめ続けるジョンクールは、意を決して娼館の日本人マダム(中谷美紀)に会いにいく。文面を訳してもらうためだ。一方、優しかった夫の変心がつかめない妻(キーラ・ナイトレイ)は、またしても日本に行く夫を淋しく見送るのだった。

こういう映画を観て、どうしても気になるのが日本の描写部分。つい細部の検証をしてしまうのだが、原作者が「この小説の日本は、ヨーロッパ人が抱いたイメージとしての日本 」と釘をさしているようなので、指摘は止めておこう。

それでも気になったのは、日本の女を絹にたとえた時代錯誤。フランスの女と香水、イタリアの男とミートボールをつなげる前時代的セクシズムすら感じるが、これも言うまい。

そもそもこの話が、19世紀のフランスの男が東洋の女に抱いた官能的追憶を描いているからだ。だからこそ、何度も登場する女の美しさを描写する場面の不自然さはたえがたかった。演技が稚拙でぎこちなく、結局は裸体を見せることで官能性の表現に代えていた。これはいただけない。

画面に登場するだけで色気が薫る女優が日本にはいないのか。どうしたことか、と思っていると高級娼婦を演じた中谷が光った。英語での映画出演は初めてではないかと思うが、短い出番の中でヨーロッパで一人生きた気位の高い女を印象深く演じていた。

後半、テーマは思わぬところに浮かび上がる。が、時はすでに遅し。前半と後半のチグハグさは埋まらず、ナイトレイのミスキャストもたたって、妻の愛の深さも夫の悔恨もぼんやりとしか伝わってこない。坂本龍一の哀感のこもった美しいピアノ曲が、ただ空しく最後を飾るだけだった。

予定上映時間:2時間弱。14日から上映開始。

英語公式サイト:http://www.silkmovie.com/