"In the Valley of Elah"


写真クレジット:Warner Independent Pictures

戦争、戦闘の実際というものが、兵士たちにどのような打撃を与えるのか。身体に負った傷は見えても、心に刻まれた傷は見えない。その見えない傷に焦点を当てた作品。03年に実際にあった若い帰還兵の殺害事件をもとにしている。

監督/脚本は、『ミリオンダラー・ベイビー』、『クラッシュ』でアカデミー賞脚本賞などを連続受賞しているポール・ハギス。去年は『父親たちの星条旗』の脚本も担当、ハリウッドで最も良質な映画を作り続けている映画人だ。

イラク戦争の是非を問う政治色を排して、戦争の実態とその衝撃を心に受けた若者たちの内奥の苦しみを真正面から取り上げた力作と言える。

イラクから帰国した若い兵士が、基地から消えた。それを知った父ハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)は、一人で息子探しを始める。彼は退役した元憲兵で、犯罪捜査のベテラン。失踪した息子の足取りをストリップ・バーなどに追いながら、予想外の息子の素顔を知る。

そして、彼の無残な遺体が基地内で発見された。

死を知った母(スーザン・サランドン)は、先に戦死している息子と共に二人の子供を戦争で失った悲しみに号泣する。

捜査はすべて軍の管轄となりハンクは取り残されるが、証拠があがるにつれて息子が基地外で殺害されたことが判明していく。ハンクは、なんとか犯人を自分の手で見つけ出そうと、地元警察の捜査官エミリー・サンダース(シャーリーズ・セロン)と共に、捜査を進めていくのだが…。

二転三転する犯人像に翻弄されながら、一見礼儀正しい帰還兵たちが隠し、抱え込んでいる心の暗部が明らかになる展開の上手さ。2人の息子を死なせた元軍人である父の悔恨と自責、母の悲しみを印象深く描くことで、家族愛を際立たせた演出の妙など、さすがハギスと唸ってしまった。

また、未熟な捜査官エミリーが、熟達したハンクに捜査ミスを指摘され、悔しい思いをしながらもメキメキと力をつけていくサイドストーリーも面白い。二人の間に育つ同士愛とも友情とも呼び難い情感が、『ミリオンダラー…』のトレーナーと女性ボクサーの関係を思い起させ、重いテーマに控えめな温かさを与えている。

悲しみ、怒り、後悔をすべて抑え込んだジョーンズの演技も絶妙だったが、署内のハラスメントと日々闘う女性捜査官を演じたセロンのキリリとした姿は、今も脳裏を離れない。

上映時間:2時間1分。センチュリー・サンフランシスコ・センター、シネアート@エンパイアで上映中。

英語公式サイト:http://wip.warnerbros.com/inthevalleyofelah/