"The Brave One"

写真クレジット: Warner Bros. Pictures

フライトプラン』以来2年ぶりのジョディ・フォスター主演の最新作は、なかなか衝撃的な内容だ。

ニューヨークでラジオ・パーソナリティをしているエリカ(フォスター)には、最愛の婚約者がいた。ある晩、散歩をしている時に暴漢に襲われ、エリカは重症、婚約者は殺される。

絶望と悲しみの中で一人の生活に戻ったエリカだが、事件の衝撃から立ち直れず、外を歩くことも出来ない。言いようのない恐怖にとらわれた彼女は、自衛のために銃を手に入れる。が、銃を手にしたその時から、エリカは自分で抑え込むことの出来ない別人へと変身していく。

どう変身したかと言うと、深夜に徘徊して「街のダニども」を殺していくのだ。

ギョッとなる展開。犯人に復讐というなら理解の範囲だが、エリカの殺しはほぼランダム。しかも、恐怖に駆られて狂った殺人鬼になった訳ではなく、エリカ自身は自分の行為を恥じ、おののいてもいる。でも止まらない、というのがこの作品のミソ。

主人公の揺れ動く迷路のような心理を、監督のニール・ジョーダン(『クライング・ゲーム』)が的確に表現し、作品に複雑な奥行きを持たせている。


フォスターも、傷付いた魂を抱えて、善悪の一線を越えてしまった孤独な女性主人公をリアルに好演。精悍なアクション・スターの肉体性まで獲得し、こういう変身もアリと思わせる説得力も充分だ。

未曾有の恐怖が人を変える、どこまで人は変わってしまえるか、をニュートラルに検分してみようという意図らしいが、フォスターが演じるとつい味方したくなるから、困りもの。

彼女は、『羊たちの沈黙』『パニックルーム』など、一貫として一人で悪と果敢に闘うタフな女性像を演じることで人気を得て来た。それは、アメリカ的フェミニズムが生んだ理想的女性像と言えなくもない。観客はエリカの中にその延長を見ていくだろうし、それを計算に入れた上でフォスターはこの役を演じているのだろう。

彼女はこの作品の製作代表の一人で、「銃を持つことを奨励している訳ではない。女は恐怖に駆られると自殺するか、子供を殺すか、といつも内攻してきた。だから、女が恐怖のはけ口を外に向けたらどうなるか、という視点の転換をしてみたかった」といつもながらの盤石の論理で作品を擁護している。

無差別殺人擁護の映画ではないと言うが、エリカを犯人と睨んで追う刑事(テレンス・ハワード)との関係が変化していき、予想外の結末。誰もが納得する勧善懲悪の映画にはしたくなかったのだろうが、この終わり方は納得できない。エリカが苦悩した意味が無くなってしまう。

「9/11以降、バン!と音がしただけでドキッとする恒常的警戒モードを生きているアメリカ人の恐怖に焦点を当てた」とフォスターは言うが、恐怖の煽り過ぎ。怖いから銃をもって自衛し、制裁するでは、誰かさんそっくりだ。

アメリカ的女性ヒーローの正体ってブッシュ的強権主義だったのね、と底が割れた感じ。それやこれや含めて、話題集めを狙った作品ではあるのだろうが、アブナい火遊びという気がする。

上映時間:1時間59分。劇場公開中。

英語公式サイト:http://thebraveone.warnerbros.com/