"The Cove"

"The Cove" 写真クレジット:Roadside Attractions
この映画の日本上映が決まらないという。日本でイルカ肉が食用で販売されていること、高値で売れるクジラ肉と偽装されていること、多くは国の決めた最大許容量をはるかに越える水銀を含有していること、などが暴かれているからだろうか。
イルカ保護を訴える元イルカ・トレーナー、リック・オベリーが、日本のイルカ猟の実態を明かそうと苦戦する様子を追ったドキュメンタリー映画だ。監督は、 ナショナル・ジオグラフィックスの写真家でもあるルイ・サイホヨス。

舞台は和歌山県太地。毎年数千頭のイルカがここの入り江に追い込まれ、ショー用のイルカを選んだ後、残るすべてが食用に殺されている。これは「追い込み猟」というやり方で、大きな音を立ててイルカを集めるため、音に敏感なイルカにとって極めて残酷な行為だと世界の動物保護団体から批判を浴びている猟法でもある。

オベリーは、何度も太地に足を運んで「追い込み猟」の中止を要請したがなしのつぶて。最近は町にいるだけで尾行される始末だ。イルカを殺す入り江は鉄条網でがっちりガードされ、大量のイルカがモリで一頭づつ殺されている実態も、太地町の人にすらひた隠しにされている。そこで、オベリーと支援者たちは入り江での殺戮の様子を秘密裏に撮影することに……。スパイ映画並の装備を調え、夜陰に乗じて入り江にカメラを仕掛ける彼らの姿がスリリングに映し出される。

オベリーは60年代に大ヒットしたTVシリーズ『フリッパー』のイルカの調教師。あの番組以来、世界中にイルカ人気が広がり、イルカ・ショーを目玉とするマリンワールドが数多く作られるようになった。しかし、イルカの生態に詳しいオベリーは、狭いタンクで生息を余儀なくされ、見せ物として芸をするイルカはストレスでボロボロの状態だという。

そんな娯楽産業の誕生の一因になったことに責任を感じ、オベリーはイルカ保護運動を開始する。イルカをショー用に売るな、 殺すな、イルカ肉は危険だ、イルカ・ショーにも行くな、と彼は訴える。

太地漁業協同組合は「追い込み猟」は何百年も続く伝統だと主張しているが、本当に伝統を守りたいだけなのか。オベリーらをテロリスト呼ばわりする過剰反応を見ていると、食用のイルカの数十倍の値段で売れるショー用イルカ・ビジネスのジャマをするな、が真意のように思えてならない。

海外から日本のクジラやイルカ猟が批判されると「牛や豚なら殺してもいいのか」と反論する人がいるが、今やそれも減らず口という感が強い。食用家畜の残酷な扱いについては米国でも大きな問題になっているし、狂牛病、鶏や豚のインフルエンザの蔓延、乱獲によるマグロ絶滅の怖れなど、食肉の危機が起きている。イルカに限らず他の生き物を食い散らし、 モノ扱いしてきたことのツケが回ってきたのだ。私たちの食と娯楽のあり方を問い直す時が来ている。

上映時間:1時間36分。エンバカデロシアターで上映中。
"The Cove" 英語公式サイト:http://thecovemovie.com/