"Unmistaken Child"

"Unmistaken Child" 写真クレジット:Oscilloscope Laboratories
チベット仏教では高僧の死後に彼らの生まれ変わりを見つける伝統がある。このドキュメンタリーはその実際を丁寧に記録したもので、主人公は師の転生者を捜す若い僧侶テンジン・ゾッパ。
2001年に亡くなった高僧ゲシ・ラマ・コンチョグは、26年間雪山の洞窟で瞑想を続け、チベットでは「現代のミラレパ」と尊敬を集めた偉大な僧。彼に7才の頃から師事し、修行を21年続けた第一の弟子がテンジンである。彼には師の死後、最も親しかった弟子として転生者を4年以内に捜すようダライ・ラマから使命が与えられていた。

その過程が実に興味深い。まず、高僧を火葬した後の灰に人の足形らしきものが浮かんでおり、その足が向かう方向に転生者がいる、というところから始まるのだ。テンジンはその方向の山の風景をスケッチし、そのスケッチは厳重に包まれて台湾の高僧に送られ、さらに転生者の所在地が独自のカードを使って占われる。そして、ついに転生者がいる谷の名前が特定され、テンジンの転生者探しの旅が始まる。

実は特定された谷はテンジンが生まれた土地。しかも、師であるラマと出会ったのもそこだった。偶然ではないのだろう。テンジンは3才の時にラマが籠る山の祠に毎日出かけ、危険なので止めるようにという親の制止も無駄だったという。彼は前世でもラマの弟子であったに違いない。そしてラマの魂は弟子と出会った土地で転生していた。その神秘性に瞠目。転生者の子供が見つかってからの後半も、驚きの連続だ。

監督はイスラエル人ナティ・バラツ。チベットをトレッキング中に偶然テンジンと知り合い、彼の師への敬愛の深さと転生者探しの熱意に感動して撮影を決意した。
「生まれ変わりを見つけることは自分の命より何千倍も大切なことだ」と言い切るテンジン。僧たちの宿縁は深く、何度も何度も転生しながら魂の家族を作り、彼らの教義を守り続けてきたのだろう。不可思議ではあるが、否定出来ない輪廻転生の証がこの映画に記録されている。

中国政府は最近になって、チベットの最高指導者の任命権は中国にあるという宣言をしている。その無謀と暴力性に唖然。この映画を観て、彼らの深淵なる伝統は国や宗教を越えて、人類の至宝として守られていくべきとの思いを強くした。
上映時間:1時間42分。

"Unmistaken Child" 英語公式サイト:http://www.unmistakenchild.com/