"The September Issue"(邦題『ファッションが教えてくれること』)


『ファッションが教えてくれること』 写真クレジット:Roadside Attractions
メリル・ストリープが主演して大ヒットした映画"The Devil Wears Prada"(http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20060705) のモデルと言われる雑誌「ヴォーグ」の名物編集長アナ・ウィンターを追ったドキュメンタリー映画だ。あの映画を観た人なら鬼編集長の素顔を見てみたいと思うのは人情。ついフラフラと試写に出かけてしまった。ウーン、本物もかなり強烈。見ようによっては映画よりも凄みのあるキャラクターだった。
そもそもヴォーグ誌は服飾にはじまり、美容、ライフスタイルなどのトレンドを先取りするファッションの超老舗雑誌。1892年に創刊されたというのだからビックリだ。今や3000億ドル(約28兆円)が動くというファッション・ビジネスを牽引する美のバイブル。その頂点に君臨するのがウィンターだ。ボブカットで大きなサングラスをかけたウィンターの姿は、パリコレやニューヨーク・コレクションなどでもおなじみ。

盤石の自信で自分のテイストを主張するウィンターに、デラレンタやゴルチエすらも彼女の顔色を伺う。毎シーズンのトレンドとなる色とスタイルは、ウィンターが決めていると言っても過言ではないだろう。本作では、ファッションの新年に当たる9月号出版に向けた6ヶ月に及ぶ綿密な編集過程が記録されている。

見どころはもちろん無慈悲で冷酷なコメントを静かに告げるウィンターの仕事ぶりだ。ダメなものは絶対ダメ。理由の説明は一切無しという状況下で、ウィンターに気に入られるものを提供し続けることが仕事の部下たち。

とりわけウィンターの片腕であるクリエイティブ・ディレクター、グレース・コディントンが、彼女の選択に振り回されながら編集を続ける様子が興味深い。互いのテイストをギリギリまで闘い合わせることで、より良い結果を生んでいくプロセスに激烈な厳しさが感じられた。

飛び抜けて魅惑的なヴォーグの誌面にハイファッションの夢を紡ぐ世界の読者たち。彼女らはどん欲で飽きっぽく、シーズンごとに新たなトレンドを求める。そして、ウィンターは90年代初め、毛皮のトレンドを復活させた。おかげで動物愛護団体から非難囂々。が、そんな声はどこ吹く風。ファッション至上主義を貫いている。

ファッションは宗教、ウィンターは法王だと言う部下。確かにウィンターの言葉は神託なのだろう。宗教はアヘンであると言ったのはマルクスだったか。納得である。監督はTVの演出家出身のR.J.カトラー。

上映時間:1時間28分。サンフランシスコはメトリオン・シアター、サンダンス・カブキ・シアターなどで上映中。
"The September Issue"英語公式サイト:http://www.theseptemberissue.com/#/home
『ファッションが教えてくれること』日本語公式サイト:http://www.fashion-movie.jp/