"Fantastic Mr. Fox"


"Fantastic Mr. Fox" 写真クレジット:Twentieth Century
魂は細部に宿る。その言葉通りの人形アニメ(人形を1コマごとに少しずつ動かして撮影し、動画のように見せる撮影技法を使ったアニメ)だ。
子ギツネが歯ブラシをくわえながら父ギツネに向ける反抗的な一瞥。上目使いに瞳が動き、顔の毛が動く。こんな精巧な人形アニメは観たことがない。それでいて温かな手作り感があり、動物たちの着る服の布地の風合いからセットの小道具に至るまで細部に見どころが一杯。

監督は『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のウェス・アンダーソンで、彼の初人形アニメ作品。原作は『チャーリーとチョコレート工場』など風変わりな児童文学を多く書いたロアルド・ダール。短編『父さんギツネバンザイ』をアンダーソンが脚色して、話をふくらませた。彼の手にかかると、カッコいい主人公にそこはかとないアイロニーが漂い、底抜けに明るいピクサー・アニメとは違う味わいの傑作アニメに仕上がった。

イギリスの田舎が舞台。ミスター・フォックス(ジョージ・クルーニー)は、地下の穴蔵で最愛の妻(メリル・ストリープ)と息子と平和に暮らしていたが、一念発起して眺めの良いブナの木に引っ越しをする。新居からは意地悪な3人の農場主の鶏、鴨、七面鳥の小屋が一望でき、その臭いに誘われて、かつて鳥ハンターだったフォックスの野性の血が騒ぎ出す。カンの良い妻には内緒で、相棒のポッサムを誘って鳥小屋を襲ってしまうフォックス。農場主たちは怒り心頭、痩せっぽちで底意地の悪いビーンが指揮を取って大掛かりなキツネ狩りが始まった……。

賢いキツネが人間の裏をかく痛快な話だが、環境破壊云々という政治的メッセージはなく、動物たちは穴を掘って逃げまくり、気転を利かせて人間にしっぺ返しをする。加えてスポーツ万能な父親に認められたい息子が優秀な従兄弟と張りあって……という父子のドラマも描かれ、物語に起伏が生まれた。豪快で奇矯な父と弱気な息子との関係はアンダーソン監督が何度も描いてきたテーマ。ファン必見の作品だろう。

脇役も凝っており、アナグマの弁護士(ビル・マーレイ)、悪玉ネズミ(ウィレム・デフォー)、モグラのピアニスト(『戦場のピアニスト』のエイドリアン・ブロディ)などの配役の妙に思わずフフフ。野うさぎのシェフ、イタチやカワウソ、ビーバーなどげっ歯類総出演で、それぞれの造形とセンスの光る役柄の面白さに目がキョロキョロ。見終わったとたん、もう一度見たくなる楽しさだった。

撮影を担当したのは『ウォレスとグルミット』のベテラン、トリスタン・オリヴァー。監督が現場に来ないでメールで演出をしたと発言し、アンダーソン監督の機嫌を損ねてしまった。メールで演出したかもしれないが、出来上がった作品はまぎれも無いアンダーソン印。この人の才能は底知れない。

上映時間:1時間28分。ベイエリア各地のシアターで上映中。
"Fantastic Mr. Fox"英語公式サイト:http://www.fantasticmrfoxmovie.com/