"The Secret of Kells"(邦題『ブレンダンとケルズの秘密』)


"The Secret of Kells" 写真クレジット:GKids
アイルランドの国宝である聖書の手写本『ケルズの書』はどのようにして生まれたのか。そのいきさつを12歳の少年の冒険物語として描いた童話2Dアニメーション。
『ケルズの書』が世界で最も美しい本と言われるだけあって、優れた映像美と幻想的な童話世界を堪能できるアニメ作品だった。フランス、アイルランド、ベルギーの合作で、今年のアカデミー賞長編アニメーション賞にもノミネートされた。監督はアイルランドのトム・ムーアとノーラ・トゥミイ。

時は9世紀、孤児のブランダンは、修道院で厳しい叔父の僧院長と優しい僧侶らに囲まれて暮らしていた。ある日、バイキングの襲撃で修道院を追われた老僧が現れ、彩飾者である彼が描きかけている本をブランダンに見せる。そして、本を完成させるために森に行ってインクとなる木の実を取って来てくれとブランダンに頼むのだった。

"The Secret of Kells" 写真クレジット:GKids
彼は森へ行くことを堅く禁じられていたが、こっそり僧院を抜け出し森に出かける。そこで、不思議な力をもった少女アシュリンと出会い、いのち溢れる森を案内してもらうことになる。

この森の場面が息をのむ美しさで、しばし陶然。少年と少女の声も愛らしく、少女が透明感のある声で歌うケルトの歌はどこか懐しい。神秘的な物語世界に引き込まれ、『千と千尋の神隠し』など宮崎駿作品を観ている時に感じるような至福感に満たされた。こういう良質な映画体験はなかなか出来るものではない。

後半は修道院がバイキングの襲撃を受ける悲劇が描かれ、難を逃れたブランダンと老僧の旅へと転じて行く。

短い作品なので省略があり、分かりやすい作り方ではないが、僧侶たちにアフリカ系からアジア系までさまざまな人種が混じっていることや、バイキングの攻撃に対して無抵抗を貫いた修道院のあり方など、無知だったケルト文化への興味をかき立ててくれるに充分な魅力をもっていた。

最後に、大きな頭文字に渦巻、組紐模様などが迷路のように描き込まれた『ケルズの書』の画像はとりわけ素晴らしく、欲を言えばもう少したくさん見せてほしかった。

上映時間:1時間15分。
"The Secret of Kells" 英語公式サイト:http://www.thesecretofkells.com/