"Four Lions"


"Four Lions" 写真クレジット:Drafthouse Films
現在の英国を舞台に、自爆テロを計画するモスリムの男達をコミカルに描いた風刺劇。05年のロンドン同時多発テロで50数人の死者が出たことを思い返すと不快に感じる人も多く、事実、遺族たちが本作の上映禁止を訴えた問題作でもある。
自爆テロと笑いという対極にある要素を両立させようという大胆不敵な試みだが、狂奔するテロ集団の中に笑いを見つける視線に独自の鋭さがあり、異色で見応えのある映画作品になっている。

主人公は、妻も子もいる若いリーダーを中心に、天然ボケ、モスリムに転向した白人、爆弾担当の変人という面々。この4人が狭いアパートで、犯行声明のビデオ撮影をするところから話は始まる。

抱えた銃が小さ過ぎておふざけにしか見えず、リハーサルを何度も繰り返し、声明文を巡って内輪もめともつかない論議に口角泡飛ばす男達。そんな彼らだが着々と爆弾を完成させ、さて自爆テロのターゲットをどこにするかで、またしても不毛な大論争を繰り広げる……。

会話や細部の演出に笑いが詰まり、こんなことに笑って良いのか? と自問しながらも、思わず吹き出す場面が続出する。思い込みやライバル意識、早とちりや偶然が重なって、彼らがマジメであればあるほど滑稽感が沸き立つ仕掛け。こんなマヌケな連中に自爆テロが可能なのか? と観客が思い始めた頃に予想外の展開を始めて、エンディングまで一気に観客を引っぱっていく。

脚本/監督は、英国で“極悪”という烙印を押されたTVニュースドキュメント番組『BRASS EYE』を手掛けたクリス・モリス。同番組で、エイズ問題や子供への性的虐待に対するメディアの扱いを揶揄して物議をかもした人物で、彼の初映画作品となる本作でも風刺の利いた英国人らしい笑いのセンスを感じさせる。

モリスは本作のリサーチのために、テロ対策エキスパートの文書や逮捕者の自白調書、手記を大量に読んで、「事実は小説よりも奇(喜)なり」を地でいくような話を調べ上げた。600キロの肥料(爆発物の原材料)を数ヶ月も溜め込んでおきながら、「兄貴、これは庭仕事に使うんじゃないんだよね?」と聞いた17歳のジハード予備軍など、トホホな逸話にコトかかなかったようだ。

テロリストと言えども人の子。見栄もクセもあり、痛いドジを踏むこともある。彼らもフツーに愚かさをもった人間なのだ、という理解を持つことは悪くない。理解は共生の一歩なのだから。

上映時間:1時間42分。サンフランシスコはルミエール・シアターで上映中。
"Four Lions" 英語公式サイト:http://www.drafthousefilms.com/