"Howl"(『吠える』)


『吠える』写真クレジット:Oscilloscope Laboratores
サンフランシスコにCity Light Books (http://www.citylights.com/) というペーパーバックだけを売っている本屋がある。1953年に詩人のローレンス・ファーリンゲティが始めたもので現在も営業中。彼はビート文学を代表する詩人の一人で、仲間にはアレン・ギンズバーグジャック・ケルアックウイリアム・バロウズがいる。
この文学運動は常識や権威への反抗精神で若者たちの心を掴み、ボブ・ディランパティ・スミスなどに影響を与え、60年代のヒッピー運動を生み出す大きな力になっていく。

さて、このファーリンゲティはギンズバーグの初詩集『Howl』(邦題『咆哮』『吠える』)を出版し、一大センセーションを巻き起こすが、57年に猥せつ罪で逮捕されている。

本作では裁判での猥せつ論争が何度も登場し、詩というものを法で裁こうした無理や滑稽さが描かれて面白い。それと共にビートニクと呼ばれた詩人たちがロックスターのように熱狂的に受け入れられた時代のムードがビビッドに伝わってくる。

主人公ギンズバーグをジェームス・フランコが演じているが、彼の賑やかな交遊関係をドラマチックに描くことを避け、写真好きだった彼の撮った写真を多用し、詩人だった父への思いやゲイであることの苦悩、『Howl』に託した情熱を語るという形で作品は進んで行く。

フランコによって『Howl』が何度も朗読され、その内容が色彩豊かなアニメショーンになって画面に広がっていくのが見どころだ。描いたのはギンズバーグとの共著 『Illuminated Poems』でイラストを書いたエリック・ドルーカー。

監督はロブ・エプスタインとジェフリー・フリードマンで、詩集『Howl』を映画化して欲しいと依頼されて初めは途方に暮れたと言う。エプスタインはドキュメンタリー映画の傑作『ハーヴェイ・ミルク』(http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20091103) を監督した人で、フリードマンと共同監督で『セルロイド・クローゼット』など同性愛者をテーマにしたドキュメンタリー映画の秀作を作り続けている。

彼らにとって詩集を映画化するというのは難題だったと思うが、ドキュメンタリー映画作家らしい技術を生かして実に意欲的な作品を作り上げた。ギンズバーグと聞いて「おっ」と思う人たちには特に楽しめる映画作品ではないだろうか。

50年以上前に書かれた『Howl』は今でも古めかしさがなく、分かりやすくはないが血が吹き出すような怒りや憤懣、パッションが疾走感のある言葉で列ねられている。力のある言葉とはこういうものなのか、こういう言葉が時代の壁を破るのか、と圧倒される思いがあった。

上映時間:1時間30分。サンフランシスコはフォースター・シアターで上映中。
『吠える』 英語公式サイト:http://howlthemovie.com/