"Blue Valentine"(邦題『ブルーバレンタイン』)


ブルーバレンタイン』写真クレジット:The Weinstein Company
映画が終わって外に出たら泣き顔の女性を何人もみた。ありふれた男女の出会いと別れを描いた映画だからこそなのだろう、主人公につい自分を重ねてしまい、思わず泣けてしまうのかもしれない。
恋の始りと愛の終わりを二つの断章として切り取って、交互に見せていく。なぜ、あれほど愛し合った二人がここまで冷えきってしまったのか。始まりと終わりだけがあってまん中はなく、なぜ破綻したのかの理由も描かれない。たぶん、二人にもその理由が分からないのだ。

運送屋の若者ディーン(ライアン・ゴズリング)は、ある日医者を目指す大学生のシンディ(ミシェル・ウィリアムズ)を見かけて一目惚れ。ロマンチストな彼は彼女を追いかけ、二人は瞬くうちに恋に落ちていく。

何もかも楽しく、深夜の街で歌い踊る二人だけのときめきの時間。そんな美しい回想を挿みながら、6年後の生活に追われる二人の現在が描かれる。仕事と子育てに手一杯のシンディと子供っぽさが抜けないディーン。言葉も心もすれ違っていく二人は、娘を親に預けて一晩モーテルに泊まり、関係の回復を図ろうとする。

物語の面白さより、俳優の演技力で見せて行くタイプの映画だ。ウィリアムズとゴズリングは共に演技力に定評のある俳優で、何年も前から本作に関わり、自身の20代を経て役柄を深めてきたような気がする。撮影前に二人で小さなアパートに週100ドルの生活費で暮らすという準備期間を持ったようで、二人が争う場面は実際の夫婦のようにリアルだ。

恋した男を全身で求めた初々しいシンディが、数年後には失望を顔に刻み、身体の接触を嫌うほどに変貌。逡巡しながら冷めた関係を認めざるを得なくなっていく若い妻をウィリアムズが体当たりで熱演し、ゴズリングと共にこの役でゴールデン・グローブ賞にノミネートされた。

本作が形になるのに12年も掛かったというデレク・シアンフランス監督は、70数回も脚本を書き換えたあげく、撮影に際しては主演二人に即興で演じさせている。ドキュメンタリー映画作りをしてきた人らしいアプローチで、甘い恋人時代を滑らかな画像のフィルムで、苦い現在をやや硬い画質のデジタルで撮るという意欲的な手法を使い、関係の変質を見せていく。

エンディングはさまざまな捉え方が出来るし、教訓めいたものはない。ただ、似たような体験をした人もしなかった人も、きっと何かを思い起こすのではないだろうか。一人で観て、さまざまな思いを持ち帰る映画かもしれない。

上映時間:1時間52分。サンフランシスコはサンダンス・カブキ・シネマなどのシネコンで上映中。

ブルーバレンタイン』英語公式サイト:http://www.bluevalentinemovie.com/
ブルーバレンタイン』日本語公式サイト(準備中):http://www.b-valentine.com/