『十三人の刺客』(英題"13 Assassins")


十三人の刺客』写真クレジット:Magnolia Pictures and Magnet Releasing
70年代後期に、黒澤明は映画『影武者』を作ろうとして、合戦場面に使える馬がいなかったという話をしている。そこで、馬を時代劇に使えるように調教することから始めたらしい。40年前ですら時代劇は黒澤にとっても作り難いジャンルになっていたのだ。そんな彼がこの映画をみたら、ニヤリとするのではないだろうか。
久しぶりに見応えのある時代劇映画が登場した。監督は『ゼブラーマン』というハチャメチャなヒーローものからやくざアクション、ホラーまで、何でもござれの三池崇史。本作では正統派時代劇に真正面から取り組んで確かな演出力を見せ、傑作と呼ぶに値する映画を作り上げた。

物語の背景は江戸末期。老中就任が決まった若き藩主松平斉韶(稲垣吾郎)は、人殺しを何とも思わぬ稀代の暴君。こんな男が老中職に就いたら天下の一大事、と断じた大炊頭(平幹二朗)は、御目付役の島田新左衛門(役所広司)を呼び出し、斉韶を秘密裏に討つように命じる。

次期老中を討つことは幕府への謀反と同じだが、斉韶の暴挙の数々を知るに至って新左衛門は意を決する。内々で腕の立つものを集め、参勤交代の道中で斉韶を討つ計画を立て、宿場町で斉韶らを待ち受ける。

天下と民のために命を掛けた侍たちの堅い信義と死闘の物語である。63年の工藤栄一監督による同名作品のリメイクだが、本作が目指した作品は『七人の侍』だろう。リーダー役の新左衛門は志村喬を、補佐役の倉永(松方弘樹)は加東大介を、剣豪の平山(伊原剛志)は宮口精二を、ナイーヴな若き剣士(窪田正孝)は木村功を、野生的な山の民(伊勢谷友介)は三船敏郎といった具合に七人の侍印が全編を覆う。しかし、傑作からのイタダキ感はなく、むしろあの見事な侍たちをもう一度蘇らせたい、あの傑作に迫る時代劇を作りたいというスタッフの意気込みが伝わる。

豪華な俳優陣の熱演と力のこもった太刀回りに加えて、武士社会の重くるしさを映す薄暗い映像の斬新さ、ラスト50分で見せまくる13人対200人の死闘、また2億円をかけて作った広大な宿場のセットと仕掛けなど、新しい時代劇としてのアイディアと演出が随所に見られ、面白さは格別だ。映画というのは監督のものではなく、監督を支える集団によって作られる総合芸術であるということを再確認させられた。

とは言え欠点や難もある。7人から13人になった分だけ刺客らの人物像が充分に描ききれていない不満や、不必要にグロテスクな映像などが気にはなった。が、そんなマイナスを補ってあまりある作り手の心意気がうれしい。絶滅品種である時代劇アクションというジャンルが息を吹き返してくれることを願って止まない。

上映時間:2時間6分。サンフランシスコはエンバカデロ・シアターで上映中。

十三人の刺客』日本語公式サイト:http://13assassins.jp/index.html
十三人の刺客』英語公式サイト:http://www.13assassins.com/