"The Tree of Life"(邦題『ツリー・オブ・ライフ』)


ツリー・オブ・ライフ』写真クレジット:FOX SEARCHLIGHT
抽象絵画を画集や小さな写真で観ているとその真価が分からないことが多い。たとえばマーク・ロスコなどは、作品の大きさを目の前にして初めて胸に広がる作品の力が実感できる。

先月のカンヌ映画祭パルムドールを受賞したテレンス・マリック監督の最新作も、たぶん映画館の大スクリーンで観ないと真価に触れることが出来ないだろう。
啓示的な抽象絵画のような映画で、観る者を映像の力で圧倒する大作だ。マリック監督は、70年代から映画を作り始めて『天国の日々』『シン・レッド・ライン』などまだ5作品しか作っていない超寡作の人だが、次回作を何年待っても良いと思わせてくれる数少ない映画作家の一人である。

本作はある男の追憶の物語として語られる。ジャック(ショーン・ペン)は、ガラス張りの巨大ビルの中で働く建築家で、ある想いに耽っている。それは50年代にテキサスで過ごした子供時代への回想だ。

その美しくもあり苦くもある追憶の中には、無償の愛を注いでくれた優しい母(ジェシカ・チャステイン)と、子煩悩だが厳格で気難しい父(ブラッド・ピット)、そして二人の弟の姿があった。

ジャックの誕生を大きな感動を持って受け止めた若い両親の姿から、すくすくと育っていく3兄弟の快活な生活が点描され、次第に記憶はジャックの内面的成長へと変化していく。

父のお気に入りだった弟への屈折した思い、性の目覚め、家族にも言えない秘密を持つようになっていく思春期の様子が、瑞々しい映像で描き出される。そして家族を見舞う悲劇。悲嘆する母は天に向けて大きな問いかけをする。命はどこから来て、どこへ去っていくのか。

物語はここから文字通り「天」、宇宙へと飛び出していく。一見唐突に思える展開なのだが、大銀河系へと飛翔する快感と神秘的な美しさに陶然となり、懐かしいような思いがわき起こってくる。

なぜなのだろう。マリック監督の中で人の営みと宇宙の始りが無理なく共存しているからなのか。地球環境を考え始めた今を生きる私たちが、宇宙との繋がりを自覚し始めているからなのか。

一人の男の物語でありながら、あたかも自分の体験のような錯覚を持たせてくれたのも稀少な体験だった。「類としての人の体験」という普遍的な視点が感じられたからだろう。この感覚は『2001年宇宙の旅』を初めて観た時に似ている。視点の壮大な広がりに魅了され、見終わるともう一度観たい、作品の力に触れたいという思いにとらわれるのだ。私はきっとこの映画を何度も繰り返し観ていくに違いない。
上映時間:2時間18分。サンフランシスコはサンダンス・カブキ・シアター、エンバカデロ・シネマで上映中。

ツリー・オブ・ライフ』英語公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/thetreeoflife/

ツリー・オブ・ライフ』日本語公式サイト:http://www.movies.co.jp/tree-life/