"Midnight In Paris" (『ミッドナイト・イン・パリ』)


ミッドナイト・イン・パリ』写真クレジット:Sony Pictures Classics
パリと言われると何を想うだろう。私ならまずフィルムノアール、白黒の映像と共にジャン・ギャバンやリノ・バンチェラなどの渋い顔が浮かんでくる。人によって想いはさまざまだと思うが、芸術の都というイメージは万人共通だろう。そこに目をつけたのがウディ・アレン監督の最新作。
バルセロナを舞台にした08年の『それでも恋するバルセロナ』以来、あまり大きなヒット作がなかったアレン監督だが、これは当たりそう。アレン・ファンはもちろんのこと、パリ好きにはぜひともお薦めしたい楽しいコメディだ。

ハリウッドの売れっ子脚本家であるギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者アィネズ(レイチェル・マクアダムス)、そして彼女の両親と共にパリに遊びに来ていた。彼は脚本家業に飽き足らず、作家への転身を狙って小説を執筆中だが、アィネズのリッチで保守的は両親はそんな彼に冷たい。

アィネズも、パリに住んで小説を完成させたいギルの気持ちには無関心で、偶然出会った学生時代の憧れの人ポール(マイケル・シーン)に誘われるまま、彼と遊び回わっている。ギルはパリの街を一人散策し、ある晩クラッシック・カーに呼び止められて古いカフェに案内される…。

本作のおかしさはここから始まるので、続きは観てのお楽しみ。ヒントを言えばエコール・ド・パリのことを知っていると断然楽しめることうけ合いだ。いつも思うのだが、アレンの真骨頂はあり得ない話を作ってそれをドンドン展開していく手腕にある。まさかこんな与太話が…と思うのだが話術の巧さで引き込む落語のノリに似ている。

たとえば『湯屋番』。大店の若旦那が家を勘当になり、出入りの職人に紹介されて風呂屋で働くことになり大喜び。アーでもないコーでもないと期待したり早合点したりのウキウキする様子のおかしさが、本作のおかしさとよく似ている。

かつてアレンが演じた妄想癖のある知的なニューヨーカーという役柄を、いかにもペラペラな感じの金髪男ウィルソンが好演。吃りながら言いたいことを言うところがいかにもアレンらしくておかしかった。

また、アレンは俳優に彼の作品に出たいと思わせる監督らしく、毎作品ごとに実力派や人気俳優たちがキラ星のごとく登場する。本作でもマリオン・コティヤールを始めキャシー・ベイツエイドリアン・ブロディカーラ・ブルーニ(仏大統領夫人)などが意外な役柄を演じて見どころになっている。

ちなみに『巴里のアメリカ人』(51年)はジーン・ケリーが踊るのミュージカル映画のことで、画家であるアメリカ青年がパリのバレリーナに恋するお話。パリはいつでも画家や作家、アーティストを魅了し続けてきた。そんなパリのマジカルな魅力が本作には溢れている。

上映時間:1時間34分。サンフラシスコはサンダンス・カブキ、エンバカデロ・シアターなどで上映中。

ミッドナイト・イン・パリ』英語公式サイト:http://www.sonyclassics.com/midnightinparis/