"Chico & Rita"


"Chico & Rita" 写真クレジット:GKIDS Distribution
大好きな音楽家のコンサートを見て来た時の華やかな満足感が広がる映画だった。若いキューバの男女の恋物語を、極上のラテン・ジャズでみせるアニメーション。ちょっとミスマッチに感じられるかもしれないが、大成功の大人向けアニメ作品だ。本年のアカデミー長編アニメ作品賞にノミネートされている。
監督/脚本は『カジェ54』などラテン・ジャズの音楽家たちに焦点を当てたドキュメンタリーを多く撮ってきたスペインのフェルナンド・トゥル エバ。92年の劇映画『ベル・エポック』ではアカデミー賞の外国映画賞も受賞している。

1948年のキューバの首都ハバナを皮切りに、NY、パリ、ラスベガスへと舞台を移しながら、才能あるジャズピアニストであるチコと素晴らしい歌声をもった美しい娘リタとの恋が描かれる。

成功を夢見るジャズマンとシンガーの恋というとスコセッシ監督の『ニューヨーク、ニューヨー ク』が思い浮かぶが、この二人も同様に音楽へ強い思いとプライドなどが邪魔をして、なかなか二人の距離が縮まらない。互いを求めながらも実ら ぬ恋、その辛い思いがラテン・バラード、ボレロのメロディと共に胸に迫り、シンプルなドラマを魅惑的に彩っていく。

音楽は40年代から活動を始めたアフロ・キューバン・ジャズの大御所ベボ・バルデス(94才!)。チコのモデルでもある。思わずため息が出るピアノはすべて彼の演奏で本作の白眉。また彼が作曲した主題曲 "Rita (Lily)"の甘くセクシーなメロディが、色あせぬキューバン・ジャズの魅力を再認識させてくれる。

他にもベテラン・ミュージシャンたちによって、当時のディジー・ガレスピーチャーリー・パーカーナット・キング・コールらの演奏や歌声がアニメと共に再現され、楽しいことこの上ない。

音楽も極めつけに良いが、アニメも素晴らしい。共同監督で作画を担当したのはハビエル・マリスカルバルセロナ・オリンピックのアイコンをデザインしたスペインを代表するアーティストだ。古いヨーロッパのコミック本を参考にしたという太い線画で一見ラフに描かれた絵が、登場人物たちを個性豊かに描き出している。

48年頃のハバナの風景は、キューバ政府から借りた貴重な写真から丁寧に描き起され、実際に現在のハバナも撮 影し、人物や踊りも動画を撮ってアニメ化し、丁寧な作り方を徹底させた。アニメ?などと敬遠せず、ラテン・ジャズ・ファンにはぜひ観てもらいたい一作だ。

上映時間:1時間34分。サンフランシスコはでエンバカデロ・シアターで上映中。
"Chico & Rita" 英語公式サイト:http://www.gkids.tv/chico/