"Bernie"


"Bernie" 写真クレジット:Millennium Entertainment
台詞の大半がコテコテのテキサス訛りで聞き取りにくいのに、何度も大笑い。もし全部が聞き取れたら、と思うと最上の珍味を食べそびれた思いになるダークでスマートなコメディ映画だ。
脚本/監督はテキサス生まれのリチャード・リンクレイター。『恋人までの距離』や『ウェイキング・ライフ』『スクール・オブ・ロック』、など難解な作品から恋愛、ファミリーものまで毎回違ったジャンルの作品を作り続けている俊才。本作ではテキサスの小さな町で実際に起きた殺人事件を主題に、現実と再現ドラマの虚構をシャッフルしながら卓抜したコメディ映画を作り上げている。

葬儀屋で働くバーニー(ジャック・ブラック)は細かな心使いで遺族の心を掴み、とりわけ高齢の女性に好かれる町の人気者だ。そんな彼が、ひょんなことから町一番の嫌われ者、富豪の未亡人マージョリー(シャーリー・マックレーン)に気に入られ、彼女のドライバー/シェフ/旅友として同居を始める。

39才のバーニーと81才のマージョリーの関係に町の人々は驚くが、二人の甘い生活は長くは続かなかった。独占欲の強いマージョリーに辟易としたバーニーは、彼女を銃で撃ち殺してしまったのだ。

物語は、この事件の本端から裁判までを経緯を、町の人々の証言をナレーションのように使って見せて行く。バーニーへの賛辞、マージョリーへの悪口雑言、バーニーのゲイ説から二人の関係のゴシップ、バーニー無罪説まで、ツイッターもかくやという証言が二人の人間像と事件を物語る。しかも、どの証言も強烈なテキサス訛りに彩られて、極上の味わいだ。

マージョリー殺しなら5ドルで引き受ける人はたくさんいる」「バーニーはたった4発しか弾を打ち込んでないのに」などあたかもマージョリーは殺されて当然と言わんばかりの女性たちの言葉に、よく書けた脚本と感心していたら、なんとこれらの証言は実際の町の人々の証言と知ってギョッとなる。事実は小説よりも奇(喜)なり。監督は、映画の準備のために町の人にインタビューをしている内にこれらの証言を使おうと思い立ったらしい。

殺人を認めたバーニーを訴追した地方検事は、人気者バーニーを被告に地元で裁判をすると無罪になる怖れがあるので、あえて別の町に裁判を移すという前代未聞を実行した、という。彼は本作についても実在の殺人事件をコメディにしたことで批判している。

確かに殺人を笑うというのは良風とは言えない。が、言われてみるまで気がつかないほど、本作の焦点は「殺人事件」にはない。嫌われ者の殺人こそ最上の娯楽とばかりに大いに語りまくり、バーニーをひいきにした町の人々。その白黒明快なテキサス人気質を引き出し、コメディ映画に仕立てあげた監督の手腕に感心させられた。

上映時間:1時間44分。サンフランシスコは18日よりエンバカデロ・シアターで劇場公開予定。
"Bernie"英語公式サイト:http://bernie-the-movie.com/