臨死体験をした女性の証言


最近、末期ガンで臨死体験をしたアニタ・ムジャー二さんの話をユーチューブで観て、大きな衝撃を受けた。彼女は死ぬことで肉体から解き放たれ、魂となって溢れる光と無条件の愛に包まれる至福の体験をした…。ここまでは臨死体験をした人たちが語る体験とよく似ているのだが、彼女の体験はさらに克明で、肉体から離れた状態でしか体験できない空間や時間に囚われない、まるでSF小説にでてくるような数々の驚異的体験をしたという。
彼女はその体験を通じて発見し学んだことについて平明な言葉で語っているのだが、その中でも特に私にとって衝撃的だったのは、「私のガンはガンを怖れる意識が作り出した」という彼女の発言だった。えー、ホントー? 信じる信じないは読者に任せることにして、ここではなぜ彼女がそう悟るに至ったのかについて紹介したい。

本題に入る前に彼女の経歴を紹介しておこう。
ムジャー二さんは、シンガポール生まれのインド人で香港で夫と共に暮らしていた。02年にホジキン病のリンパ腫が発見されたが、友人や親族が従来の化学療法や放射線療法で体力を落とし亡くなっていたために、自分は代替療法を選ぶ。

しかし、06年には全身にレモン大のリンパ腫が出来て、病院に担ぎ込まれた時は昏睡状態。医師からはあと36時間ほどの命と宣告され、彼女は意識が回復しないまま臨死状態となった。

しかし、本人にとってはその時病室で起きていることや、廊下で医師が夫に話していること、病院に駆けつけようと飛行機に乗っているインドの兄の姿などが、時間や空間の壁を越えて一瞬にパノラマ状態で知覚することが出来たという。

また、死後の世界では先に逝っていた父や親友と感動の再会をし、ありのままの自分を丸ごと受け入れてくれる大いなる愛と光につつまれる幸福感を味わった。そして、その時、彼女はなぜ自分がガンになったのかが分かったのだという。

彼女は人に好かれたい、信頼のおける人間だと思われたいために、自分の欲求や思いはいつも後回しにするような生き方をしてきた。インドの伝統的な価値観を持つ家族に生まれながら、西洋的な教育を受けて育ってきた彼女は、自分が自立して生きるために、それらのことは必要なことだと思ってきたのだ。

さらに、彼女には怖いものがたくさんあり、中でも最大の恐怖はガンだった。とりわけ親友がガンになったからは、その恐怖がさらに増していった。ガン検診を必ず受け、厳格な菜食主義者で、食べ物を選ぶ時はそれを食べたいからではなく、それが身体に良いから食べていたのも、ガンが怖かったからだった。

つまり、常にガンを意識して生きていた訳で、そのために自分の欲求に耳を貸さず、頭で良いと思うものを選び、結果としてありのままの自分を押し込め、自分に多くの制約を強いてきたのだ。そのことが、魂の存在となって無条件の愛と肯定を体験することで一瞬にして分かったというのである。肉体から逃れた魂は自由で何事も怖れない本来の自分を見せてくれた、とも言っている。

興味深いのは、彼女が代替療法に迷いを感じ始めた体験を語るくだりである。インドに帰り伝統医術のアユルベーダやヨガの素晴らしい先生と出会って「ガンは身体のバランスを取り戻せば怖くない」とサポートされてかなり健康を回復する。その後香港に戻り、中国医学の治療を受けたがインド医学とは大きく矛盾し、不安と混乱に取り込まれて代替療法のあり方に疑問を持ち始める。同時に周囲からも「漢方なんかに頼って自分の命で賭けをしている」などと批判的な声が聞こえ始めて、だんだんと病状を悪くさせていくのだ。

症状悪化の経緯は単なる偶然、インドにいてもいつかは悪くなる筈だったと断じることも出来るだろう。だが、それではなぜ彼女がこの体験を繰り返し語り続けているのかの意図を受け取れない。「ガン患者に希望を持ってもらいたい」という彼女の気持ちは本物だと思う。

魂の状態にいたムジャー二さんは病気だらけの身体に戻りたくなかったが、父からまだ早過ぎると言われて肉体に戻る決心をし、ガンを怖れない本来の自分として肉体に戻ってくる。そして、昏睡状態から目覚めた彼女にはさらなる奇跡が待っていた。全身にあった腫瘍が3日間ほどで70%も減り、1ヶ月後には全身のガンが消えていたのだ。

この経過の信憑性については、米国のガン専門医がムジャー二さんの近刊本『Dying to Be Me』(意訳:死を通して出会った自分)の中で保障している。彼女の体験を知って疑問を持ち、実際に香港まで出かけて彼女のカルテを調べた医師である。

百万人に一人にしか起きないような奇跡の話。私には関係ないや、と思ってくれて構わないが、私は彼女がガンと恐怖/意識の関係について、貴重な発見を掴んで生還したのだ、と思えてならない。ガン予防を声高に強調する医療やメディアがある一方で、ガン死亡率が増え続けているのはなぜなのか、と彼女は問いかけている。

怖れから行動するのではなく、自分の感覚や実感を信じること大切だと力説するムジャー二さん。「私たち一人一人がこの宇宙に生を受けた気高く崇高な存在です。自分をもっと愛してください。」という彼女の言葉はまっすぐに私の心に届いた。

肉体は私ではない。肉体に私が宿っているのだとすれば、意識が肉体を支配していると言っても過言ではない。私たちは肉体の奴隷ではないという真実に気づくこと、それだけでも彼女の声に耳を傾ける意味はあるのではないだろうか。

英語だが彼女のホームページ:http://anitamoorjani.com/にいくと彼女の体験記やインタビュー動画が多くアップされている。とりわけ、彼女が語る時空を越えた体験は三次元に生きる私たちの世界観に疑問を投げかける奥深い内容で、多くの人に読んで欲しいと思わされるものがあった。