『Life of Pi』(3D、邦題『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』)


ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』写真クレジット:20th Century Fox
見終わったとたん、隣りにいたライターの女性に「このトラはCG、ですよね?」と確認してしまった。実写とCGの見分けがつかないトラが吠え、跳ね、暴れまくる姿に圧倒されたのだ。そして、海と空を映し出す3D映像の美しさに時間を忘れた。
3,000人のオーディションで選ばれた素人の少年とCGのトラで、すごい冒険潭を作り上げたものである。邦題は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』で、来年早々に日本での公開も決まっている。誰にでも推薦したいサバイバル・アドベンチャーの大作だ。

インドにまだポンディシェリという仏領があった時代の話。主人公は、宗教への関心が強い菜食主義者の少年パイ・パテル(スライ・シャルマ)。彼の父は動物園を経営していたが、彼が16才の年カナダへの移住を決め、動物たちを乗せた船に乗って一家は長い船旅に出る。ところが途中で大嵐に遭遇、バイだけが救命ボートと共に海に放りだされる。しかも、そのボートにはトラが潜んでおり、パイはトラとの長い漂流生活を余儀なくされる。

これだけ書いただけでもワクワクするような話だ。原作はカナダの作家ヤン・マーテルの01年の同名小説(邦題『パイの物語』)で英国のブッカー賞を受賞している。

監督は台湾出身のベテラン、アン・リー。彼に監督が決まるまでに世界中の実力派監督らが候補に上がったようだが、彼に決まって正解だったように思う。血湧き肉踊る冒険の数々と、パイがトラとの共生に格闘しながら、次第にトラへの愛着を感じていく動と静のドラマ・バランスが見事なのだ。

彼は武術ものの『グリーン・デスティニー』や悲恋もの『ブロークバック・マウンテン』など多様なジャンルの作品を高い完成度で作り続けてきた人で、そんな彼の最高作の一つと呼んでよい作品だと思う。

本作は、漂流を生き抜いたパイが中年(イルファーン・カーン )になって、ある作家に体験を語る、という形式でスタートする。その中で若いパイがヒンズー教キリスト教などさまざまな宗教の影響を受け、多宗教を矛盾なく生きてきたという話が出てきて、それが秀逸なエンディングへと繋がっていく。

原作者のマーテルは、外交官の父と共に中米やフランス、インドで子供時代を過ごした体験を元に、イスラム教やユダヤ教など世界のさまざまな宗教の原典も熟読して小説を完成させたようだ。

海上での227日の孤独を生き抜いたパイを支えたものは何だったのか? 神は存在するのか? 
単純なハッピー・エンディングでは終わらない本作の奥行きの深さは、こうした問いを最後まで観るものにも問い続ける原作の力によるものだろう。何を信じるかが人の生き方を決める、そんな思いを抱いて帰路についた。

上映時間:2時間。サンフラシスコはサンダンス・カブキ・シアターなどのシネコンで上映中。
『Life of Pi』英語公式サイト:http://www.lifeofpimovie.com/
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』日本語公式サイト:http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/