"Les Misérables"(邦題『レ・ミゼラブル』)


レ・ミゼラブル』写真クレジット:Universal Pictures
世界43カ国で上演され、日本でもロングランが続いている舞台ミュージカル『レ・ミゼラブル』の映画化。世界中に熱烈なファンが多い作品なのだろう。豪華な俳優陣を配した2時間27分の大作で、ホリデーシーズンに家族で映画を、という人たち向けの娯楽作品だ。
ヴィクトル・ユーゴーの同名小説はあまりに有名なので、物語は簡潔にしよう。
19世紀のフランスを舞台にパンを盗んだ罪で長年投獄されたジャン・ヴァルジャンヒュー・ジャックマン)の物語。出獄後、名前を変えて地位を得るが、彼の前歴を知るジャヴェール警部(ラッセル・クロウ)に追われ、その過程で貧しい女ファンテーヌ(アン・ハサウェー)から幼い娘コゼットを託され、パリへと出奔。月日は流れ、パリでは革命を目指す若者たちのうねりが起き、ヴァルジャンとコゼット(アマンダ・セイフライド)もその動きに巻き込まれていく。

ミュージカル映画の見どころである歌唱と俳優たちの競演という点では、期待通りの作品だ。監督は『英国王のスピーチ』で優れた演出力を見せたトム・フーパーで、ミュージカル映画初、すべての歌唱場面を生で録音するという画期的な撮影を敢行。これが功を奏して、録音した歌に合わせて俳優が口パクする演技では出せない、歌に込められた情感が大画面に広がる。

舞台ミュージカル出身のジャックマンは歌唱と演技に安定感があって主演に相応しく、ハサウェーやセイフライドの歌唱力も伸びやかで美しく聞き応えがあった。またコゼットの養父母テナルディエ夫婦を演じたヘレナ・ボナム=カーターとサシャ・バロン・コーエンがコミカルな演技で作品に軽快なアクセントを付けて楽しい。

演技力に加え優れた歌唱力を持つ俳優たちの豊かな才能に感心させられたが、クロウの声量のなさにはやや落胆。彼はダークなジャヴェールには向いているが、ミュージカルの人ではない。この難点はそのまま原作を愛読した筆者の不満に繋がった。

舞台版を観ていないので比較はできないが、舞台版のファンも充分楽しめる映画作品だとは思う。しかし、原作の魅力はヴァルジャンと彼を執拗に追うジャヴェールの関係にあった。犯罪者の子として生まれ、同じ境遇の者を激しく嫌悪したジャヴェールは『レ・ミゼラブル』の中では悪役以上の人間だった。

一説によるとヴァルジャンとジャヴェールは、実在した犯罪者で後にパリ警察のスパイになったフランソワ・ヴィドックがモデルという。一人の人間の持つ背反する面を二人の人間の葛藤として描いたからこそ小説『レ・ミゼラブル』は、名作として読み継がれてきたのではないだろうか。

屈曲する人間の内面をミュージカルで描くのは難しかったのかもしれない。見終わってみると、俳優らの熱唱パフォーマンスばかりが際立って、作品テーマの「愛、勇気、希望」はお題目だけという感想が残った。

上映時間:2時間27分。サンフランシスコではシネコン等で上映中。
"Les Misérables" 英語公式サイト:http://www.lesmiserablesfilm.com/
レ・ミゼラブル』日本語公式サイト:http://lesmiserables-movie.jp/