"The Place Beyond the Pines"


"The Place Beyond the Pines" 写真クレジット:Focus Features
数え切れない入れ墨が彫り込まれた引き締まった腹筋に、エンジェルナイフを忙し気に動かす男の手のアップ。男は背を向けてカーニバルの喧噪へと歩き出し、あるテントの中に入り、彼を待ちわびる観客の歓声を振り切るようにバイクに股がる。男はグローブ・オブ・デスと呼ばれる、3台のバイクが球体の中を走り回るアトラクションのライダーだ。
3分近いワンショットで、主人公が何者であるかをくっきりと描き出す見事な導入部にまず引き込まれた。
ブルーバレンタイン』のデレク・シアンフランス監督の最新作だ。ある2人の男の宿命的な出会いからその後の15年間を、3つの物語として描いていく。題名は作品の舞台となったニューヨーク州スケネクタディの別名で、モホーク族の言葉「松の林の向こう側」からきている。

最初は、町から町への興行を続けるルーク(ライアン・ゴズリング)というライダーの物語だ。昔来た町で別れた恋人ロミーナ(エヴァ・メンデス)と再会。彼女が、彼の子どもを生んでいたことを知って、母子の面倒をみようと銀行強盗を始めてしまう。
そんな彼を追いつめる、やる気満々の新米警官エイブリー(ブラッドリー・クーパー)を描く中盤が第二の物語だ。バトンを渡すようにルークからエイブリーへと物語が進んでいくので、この話はどこかで繫がっていくのだろうかと気になり出した頃に、第三の物語が始まる。

シアンフランス監督は、前作である夫婦の出会いと別れを瑞々しいスケッチ画風に見せて才気を感じさせた人。だが、本作では男たちの人生を時間軸通りに追うというオーソドックスな手法を取り入れたせいか、どこか重く古典絵画のようだ。

ゴズリング、クーパー、メンデスという人気俳優を配して、3つドラマを繋いでいこうという意図だと思うが、ドラマは中盤から次第に失速していく。
ゴズリングの筋肉トレによる40パウンド増量、華麗なバイクライドなどに魅了させられる導入部の迫力に比べて、中盤のメインであるクーパーの力量不足が否めない。
第三の物語でテーマらしきものが見えてくるが、ようやく話が繫がった安堵感だけでは嬉しくない。長い物語を直線的に語って最後に息切れ、という印象が残ってしまった。

上映時間:2時間21分。サンフランシスコはヴァンネス、サンダンス・カブキシアター等で上映中。
"The Place Beyond the Pines" 英語公式サイト:http://focusfeatures.com/the_place_beyond_the_pines