"War Witch (Rebelle)"(邦題『魔女と呼ばれた少女』)


『魔女と呼ばれた少女』写真クレジット: Tribeca Film
アフリカを舞台に、反政府軍によって拉致され、ゲリラ兵士になった12歳の少女を描いた映画作品なので、悲惨な物語を予想した。確かに惨い物語ではあるのだが、主人公がまだ見ぬ自分の子供に語りかけるという形式で物語が進んでいくために、戦渦を生き抜く血なまぐさい現実感よりも、誰にも壊せない少女の内面世界が伝わる秀作映画だった。
見終わってみるとアフリカの大地に生きる少女の力強い姿がくっきりと心に残る。脚本/監督はモントリオール出身のキム・グエン、今年のアカデミー賞外国映画賞にカナダから出品された作品でもある。

貧しいながら両親と平和に暮らしていた12歳のコモナ(ラシェル・ムワンザ)の村が、突然反政府軍に襲われた。コモナは拘束され、その場で両親を殺せと命じられる。訳も分からず両親を銃殺、反政府軍の一兵士となってジャングルを行くコモナの意識はいつもどこか朦朧としていた。
そんな彼女は、ある頃からジャングルで死んだ人々の亡霊を見るようになる。彼女の力を知ったリーダーは、彼女を魔女、反政府軍の守り神だと祭り上げるが、ゲリラ生活は変わらない。コモナは彼女に優しい少年マジシャン(セルジュ・カニンダ)と共に、部隊から逃走するのだった。

話はここまでで半分。両親の亡霊と生存への欲求に導かれて、コモナ自身の人生は後半から始まる。
本作の良さはコモナを演じたムワンザの素晴らしさに負うところが大きいだろう。ゲリラ時代の硬直した表情から、恋する少女の甘く柔らかな思いを全身に溢れさせる後半への変化。そして、ある決意をして旅に出るコモナの強さを生き生きと自在に演じ分けている。

ムワンザは、撮影地のコンゴのストリート・キッド、つまりはホームレスだった少女で、演技経験ゼロ、オーディションで選ばれた。彼女の演技は、演じているというより、憑衣状態でコモナになり切っているという感じだ。それがそのまま、コモナの持つ不思議な力に説得力を与えている。昨年のベルリン国際映画祭でアフリカ出身の女性では初めての主演女優賞を得て、コンゴの人々を喜ばせたと言う。

オリジナル脚本を書いたグエンは、本作のために10年近く少年ゲリラについて調査し、多くの少年少女たちにインタビューを重ねたようだ。とりわけコモナのキャラクターには、99年に話題になったミャンマーの12歳の少年ゲリラ、ジョニーとルーサー・トー兄弟を生かしたという。
この双子の兄弟は、銃弾を受けても死なないなどの神通力があると信じられ、ゲリラ組織「神の軍隊」を率いるリーダーだったという。今回初めてこの双子について知り、写真や動画も見たが、幼い顔つきで太々しく葉巻を吸う姿には、平然と人殺しをする人間の冷酷さが漂い、凝視に堪えないものがあった。

幼くしてゲリラにさせられた子供たちの無惨な状況から、コモナという豊かな想像力と感性を持った少女を造形した監督の力量に感心した。「アフリカの少年兵問題を訴えようとすると、悲惨で悲劇的な状況を強調しがちだったと思うが、自分は彼らの再生していく力強さを描きたかった」というグエン監督。

コモナは、世界各地の内戦でゲリラとして銃を持ち、死んで行った幾千という子供たちの、家族や仲間への愛、自由に生きたいう願いのすべてを体現していたように思えてならない。

魂はどんな過酷な運命でも、それを選んで生まれてくるという。だとすれば、兵士として死んで行った子供たちを無力な「被害者/犠牲者」扱いはできないだろう。ただただ、彼、彼女らの果敢な魂の選択に深い敬意を持つばかりだ。
上映時間:1時間30分。
"War Witch" 英語公式サイト:http://www.rebelle-lefilm.ca/english/
『魔女と呼ばれた少女』日本語公式サイト:http://majo.ayapro.ne.jp/