"The Heat"(原題『ザ・ヒート』)


『ザ・ヒート』写真クレジット:20th Century Fox
ワイ島に引っ越してきて以来、インディ系や外国映画を見るチャンスが激減してしまった。サンフランシスコにいる時はリッチな映画お大尽暮らしで、ハリウッド映画を観ることはほとんど無かったのだが、太平洋のまん中に暮らしていると贅沢は言っていられない。今回紹介するのはバリバリのハリウッド映画で、サンドラ・ブロックが主演する最新作だ。
二人の女刑事が犯罪を解決するアクション・コメディで、ブロックとタッグを組むのは『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』で大ブレイクしたメリッサ・マッカーシー。監督も同じポール・フェイグで、『ブライズ…』でアカデミーの助演女優賞候補になったマッカーシーアカデミー賞女優のブロックと組ませて刑事ものコメディを、というヒット狙いミエミエの作品ではある。
しかし、『ブライズ…』もマッカーシーも大好きなので、イソイソと観に行き、アレコレ気になることはありつつも、それなりに楽しめた。

FBI特殊捜査官サラ・アシュバーン(ブロック)は、有能な完璧主義者だがゴーマンなので同僚たちの嫌われ者。ボスの昇進に伴って空いたポストを得ようと野心満々だ。実績を上げようと麻薬組織のボスを捕えるためにボストン警察との連携捜査に乗り出す。

ところが、彼女と組むことになったボストン警察の刑事シャノン・マリンズ(マッカーシー)は、口が悪くて粗暴、傍若無人な彼女のやり方にボスさえお手上げの一匹狼だった。まったく対照的な二人は出会い頭に大衝突。しかし、捜査が進むに連れて互いへの信頼が芽生えていく。

性格が正反対の刑事がタッグを組んで犯罪を解決するという典型的なバディ・コップもの(相棒刑事もの)で、映画作品としては根強い人気のあるジャンルだ。『ラッシュアワー』『メン・イン・ブラック』などシリーズになったものも多く、脚本を書いた女性脚本家ケイティ・ディポールドは「女刑事二人の『リーサルウエポン』みたいな映画を作りたかった」と言っている。

確かに女のバディ・コップものはTVシリーズを除けば今まで無かった。たぶん、このジャンルの特徴である対立する二つの個性の描き分けや、刑事独特の際どく下品な会話のやり取り、暴力シーンなどを男たちと同じように描いてもリアリティがない、というクリアしなければならない問題が多々あったからだろう。その点で本作は半分位成功している。

まずはブロックとマッカーシーの息が合っていたことが大きい。ブロックは『しあわせの隠れ場所』のシリアスな演技でアカデミー賞を取ったけれど、彼女の本領はコメディでこそ光る。『デンジャラス・ビューティー』以来の刑事ものコメディで、あの中では女一人で孤軍奮戦という設定だっが、本作では打てば響く相棒がいる。
おバカな台詞の連続をコメディアン出身のマッカーシーと丁々発止と交わし合って、熟達した漫才師の掛け合いを見ている気分だ。また、性格は大違いだが友達のいない仕事人間、一匹狼の孤独を一番良く理解してくれる相棒を見つけた二人の喜びが、本作にハッピーなムードを持たせている。

問題はマリンズ刑事の役柄を不必要に暴力的に描いている点で、笑えるものではなかった。しかし、彼女は実はモテモテで、捜査に行く先々で元カレから声を掛けられ男を振り払うのに一苦労。全然モテないアシュバーンに恋の秘訣を伝授するという設定が楽しいし、大柄な彼女を笑うシーンが無かったのも好感が持てた。

ワイ島に来て以来、大柄な女性が堂々と自信たっぷりに町を歩く姿に見るたびに、美しさは本人が自分をどう思うかにかかわっているんだ、と納得する毎日。
マッカーシーの自信には大きな説得力がある。行き過ぎ感のある脚本や設定の無理は何度も気になったが、初めての女刑事相棒ものとしてはまずまずの出来映え。公開以来ヒットが続き、すでに『The Heat 2』の製作も決まったとか。確かに、この二人にまた会いたい気はする。

上映時間:1時間57分。ヒロ市ではRegal Kress Cinemas 4で上映中。
『ザ・ヒート』英語公式サイト:http://www.theheatmovie.com/