"Noah"(邦題『ノア 約束の舟』)


"Noah"写真クレジット:Paramount Pictures Corporation
神の声を聞く男ノア(ラッセル・クロウ)は、人類の悪行を正すために神が洪水を起して人間を滅ぼすという神託を得る。
彼を信じる妻ナーム(ジェニファー・コネリー)と3人の息子、長男ハム(ローガン・ラーマン)、次男セム(ダグラス・ブース)、三男ヤペテ(レオ・マクヒュー・キャロル)と養女イラ(エマ・ワトソン)の一家は神託に従い、すべての動物を一対つづ乗せられる巨大な箱船を作り、洪水に備え始めた。
ハムとイラは恋仲だが、年若いセムは一人者。彼は父に洪水の前に伴侶を見つけたいと頼んでいた。そんな一家に不審を抱いた土地の権力者トバルカイン(レイ・ウィンストン)は、一群をひきつれ箱船を乗っ取ろうと襲いかかってきた。すると大雨が降り出す。

ノアの箱船』は旧約聖書の『創世記』にある有名な話だが、ノアの人物像や彼の家族、また洪水後についてなどは諸説があるらしく、またキリスト教徒とイスラム教徒ではかなり違った物語になっているようだ。

本作では、ノアと同時代にはいなかったトバルカインという横暴な男を登場させてノアと対立させたり、ノアを助けるウォッチャーという石の怪物や洪水後の箱船内で起きた緊迫した家族のドラマなどが創作されて、見応えのある映画作品になっている。

共同脚本と監督を担当したのは『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー。低予算で凄みのある心理ドラマを作って来た人だが、本作では製作費が大幅に増え特撮を使った大作への挑戦となった。とは言え、彼には壮大なスケールの『ファウンテン』という啓示的なSFの秀作もあるので、彼の並外れた想像力とボールドな映画作りには注目していた。

本作は公開前からアラブ首長国連邦などでは上映禁止となり、配給のパラマウント社は何度も変更を要求したが、粘りに粘って変更なしで公開にこぎつけたらしい。

後半のドラマが問題視されたのかもしれないが、この部分こそが本作のテーマである。洪水後、箱船内で人類として唯一生き残ったノア一家。彼は自分の血族を絶えさせることで、人類を滅亡させることが神に応える道だと家族に悟す。ところが、神への誓いを揺るがす事態が起てしまう。妻はノアの頑迷さに怒り、息子たちも離反する。人類生存の有無がノアの決断一つにのしかかる。
果たして彼は神への誓いを守ることが出来るのか? 
キリスト教では聖人とされているノアの、人間として父としての苦悩をクロウが好演している。

宗教を越えて誰もが知っている物語に独自な理解と解釈を与えた創作部分を加え、そのヴィジョンを守り通したアロノフスキー監督。「映画作りはアートではなく、99%が官僚主義との闘い」という彼の言葉にズシリと実感が籠っている。

上映時間:2時間12分。全米のシネコンで上映中。
"Noah" 英語公式サイト:http://www.noahmovie.com/
『ノア 約束の舟』日本語公式サイト:http://www.noah-movie.jp/