“Dawn of the Planet of the Apes”(邦題『猿の惑星:新世紀(ライジング)』)


猿の惑星:新世紀ライジング)』写真クレジット:20th Century Fox
近未来の地球、人類は認知症治療薬として開発された薬品から生まれたウィルスによってほぼ絶滅の状態に瀕していた。一方、同じ薬品の動物実験の結果、知性を持った猿たちは虐待を続けた人間とのバトルを経て、森の中にコロニーを形成。薬品開発者に育てられ並外れた知性を獲得したシーザー(アンディ・サーキス)の指導下、平和な生活を送っていた。
同じ頃、数少ない人間の生き残りたちは、廃墟と化した街でドレイファス(ゲーリー・オールドマン)をリーダーに窮乏生活を余儀なくされていた。建築家のマルコム(ジェイソン・クラーク)らは、猿の森にあるダムを再建しようとコロニーに侵入。猿に発見されあわやの事態となるが、シーザーが武装する人間との争いを水際で納める。
マルコムは、人間の言葉を話すシーザーの優れた指導力と能力に瞠目し、人間と猿との共存の可能性を感じるのだった。

猿の惑星』もの8作目で、新シリーズ第1作目『猿の惑星:創世記ジェネシス)』の後日談。前作もシーザーが主人公という趣きだったが、本作で彼はさらに成長。「猿は猿を殺さない」を信条とする頼もしいリーダーとしてくっきりと描かれ、魅力的だった。身体能力では人間より数段優れた猿が高いを知性を持ち、仲間と家族を持ったのである。怖いもの無しである。

森の生活は原始的ではあるがある種の理想郷で、街で電気がないと暮らせない人間との落差は大きい。しかも、ウィルスで家族を失った悲しみと貧窮に苦しむ人間たちは、窮鼠猫を噛む精神状態。ドレイファスをはじめ猿を野蛮な動物だと敵視する者も多く、膨大な武器弾薬を抱えて何者かの侵入に備えているという設定である。

物語はマルコムらの猿と人間の共存への努力を描きつつ、背後で恐怖や憎しみに囚われた精神が暴力へと押し進む姿を対比させていく。
共存か戦争か。何が戦争を誘発するのか。意味不明にモノをぶっ壊すだけの作品が多い夏のハリウッド娯楽映画群の中では意味深い問いかけを描きだし、現在進行中のイスラエルパレスチナ間の紛争や、集団的自衛権の拡大解釈をした安倍政権を思い出してしまった。なぜ戦争したいのか。戦争=仲間の死だ、と言う本作の猿の方がずっと賢明である。戦争を避ける努力の中にこそ真の知性と人間性があるのではないだろうか。


猿の惑星:新世紀ライジング)』写真クレジット:20th Century Fox
それにしてもこのポスターはイタダケナイ。馬に乗った猿が銃をもって人間に反旗…という図だが、恐怖を煽るやり方が戦争を生む、という話である。
さらに難を言えば、サイドで描かれるエピソードが古くさいクリシェ。せっかく人類的テーマとタックルした作品なのだから、新生バットマンシリーズ位の意外性を持たせて欲しかった。最近はディズニーですら『アナと雪の女王』などで新境地を開拓している。
監督は『クローバーフィールド HAKAISHA』のマット・リーブス。

上映時間:2時間10分。全米のシネコン等で上映中。
“Dawn of the Planet of the Apes”英語公式サイト:http://www.dawnofapes.com/
猿の惑星:新世紀ライジング)』日本語公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/saruwaku-r/