"Only Lovers Left Alive"(邦題『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』)


『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』 写真クレジット::Sony Picture Classics
デトロイトに住むアダム(トム・ヒドルストン)は、アンダーグラウンドの音楽シーンで活躍する覆面ミュージシャン。身元を伏せているのは、彼が吸血鬼だからだ。長く生きてきたせいか、生きることに倦み、鬱気味である。
彼の妻イブ(ティルダ・スウィントン)は、モロッコのタンジールに住み、尊敬する作家の吸血鬼マーロー(ジョン・ハート)と知遇を得て、生命線である血を彼から手に入れていた。しかし、アダムの鬱が気になるイブは、夜のフライトを乗り継いでデトロイトにやってくる。

何世紀も愛し合って来た二人は再会を楽しむが、突如イブの妹エヴァミア・ワシコウスカ)が家に転がり込み、静かな二人の生活に大きな波風を立てるのだった。

ロサンゼルスから来たエヴァに「あそこは吸血鬼だらけだ」というアダム。本作の脚本/監督をしたジム・ジャームッシュの本音だろう。
84年の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』に始り『ゴースト・ドッグ』など、ニューヨークをベースにインディ系映画を作り続けた人らしい実感が籠っている。
彼が話しているのを聞いたことがあるが、森羅万象への好奇心と知識にあふれ、真面目なのか不真面目なのか分からない話ぶりで人を煙に巻いて楽しんでいる風があり、アダムは彼の分身という気がした。

古い楽器と音楽に精通し、ニコラ・テスラのフリー・エネルギー発電機を使っている超個性的な吸血鬼を主人公としたロマンチックな恋愛映画。こんな映画はジャームッシュにしか作れないだろう。その枠組みにミュージシャンである監督の音楽性を盛り込み、独特のユーモアでスパイスを利かせ、楽しいことこの上ない。
主演のヒドルストンとスウィントンも、モダンでセクシーな吸血鬼をクールに演じている。

ジャームッシュ作品にはドラマチックなものは少なく、スタイリッシュな映像と登場人物が交わす大真面目な会話のオフビートな笑いを感性で楽しむタイプの作品が多い。感性の合わない人には面白さが伝わりにくい作風でもあるが、本作はそんな彼にしか作れない映画の一つの到達点を感じさせてくれる快傑作である。

21世紀の血液事情が悪く、吸血鬼が医者から血を買っているという設定がおかしくもあり、暗示的だ。人の首に牙を立てられなくなった吸血鬼の危うい未来は、人間の未来でもあるという監督。食という観点に立つとなるほどと納得だ。
GMO食品添加物を大量に食する人間の未来は危うい、と言えなくもない。血を求めて美しいタンジールの路地を彷徨う吸血鬼夫婦のイメージが目に焼き付いてしまった。

上映時間:2時間3分。米国内ではiTune Movie等で視聴可能。日本ではDVDが発売されている。

"Only Lovers Left Alive" 英語公式サイト:http://www.sonyclassics.com/onlyloversleftalive/
『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』日本語公式サイト:http://www.onlylovers.jp/