"Belle"


"Belle" 写真クレジット:20世紀フォックス・ピクチャーズ
アフリカ女性と英国貴族の混血で、貴族の館で育てられた実在の女性ダイド・エリザベス・ベル(1761-1804)の物語。館では家族と共に食事をすることも出来ず、使用人以上家族以下として生きねばならかったベルが、自分らしい生き方を見出だしていく姿を情熱的なロマンスと共に見せてくれる秀作映画だ。
奴隷女性と英国海軍軍人ジョン・リンゼイ(マシュー・グード)との間に生まれたベル(ググ・バサ=ロー)は、父の叔父マンスフィールド伯爵(トム・ウィルキンソン)の館に預けられていた。ジョンはベルを貴族の娘として育てて欲しいと言い残し、戦地へと発ったのだ。

子供のいない伯爵と妻(エミリー・ワトソン)は混血の私生児をどう育てるか困惑するが、館に住むもう一人の姪孫エリザベス(サラ・ガドン)の遊び相手として育てよう決める。奴隷の子であると同時に自分の血を分けた貴族の一員でもベルを、伯爵夫婦は差別的な位置に置きながらも愛情を注ぎ、二人の少女は姉妹のように仲良く育った。

ベルらがいよいよ夫探しをする年齢になって、二人に試練が待っていた。ジョンが戦死して莫大な遺産を相続したベルは早急に結婚する必要は無かったが、父親に捨てられマンスフィールド家に身を寄せていたエリザベスはなんとしても資産のある夫を見つけ出さねばならい。資産のない娘として敬遠されるエリザベスと、混血ゆえにあからさまな差別を受けるベルの二人であった。

18世紀の貴族社会が舞台なので見た目は優雅で美しいが女が直面した現実は厳しい、というジェーン・オースティン風のお話ではある。だが、人種によるあからさまな差別を描くことで、自分では何も出来ない女の逼塞した状況がさらに明確となった。美貌だが文無しのエリザベスも不遇だが、資産のあるベルの金を目当てにする男も現れて…。婚活のタイヘンさは貴族の娘も日本の女子も変わらない。

物語を書いたのはアフリカ系英国女性作家マイサン・サーゲイで、彼女がふと目にしたベルとエリザベスの二人の肖像画を見て物語を書いたという。内容は歴史的にもかなり正確に再現されているようだ。
その物語を脚色/監督したのがアフリカ系英国女性アマ・アサンテ(『ア・ウェイ・オブ・ライフ(原題)』)。ベルの心情に寄り添っていく物語展開で秀逸で、彼女を囲む女性たちの多くもそれぞれに自分の意見を持ち、ベルに対して優しい眼差しと理解を示している設定が心地よい。さすが女性による映画作品である。

中盤から高等法院首席判事でもある伯爵が扱った奴隷船裁判を巡って、若い気鋭の弁護士(サム・リード)とベルが奴隷制度への疑問を投げかけていき、物語はグンと骨を持って面白くなっていく。
この裁判はゾング大量虐殺(奴隷船から142人の奴隷たちを海になげ捨てた船主が、保険会社に奴隷=貨物として賠償を要求した)と呼ばれた実在の事件で、この裁判で判事の伯爵が出した判決が、その後の英国における奴隷廃止運動の下地を作ったと言われている。

息苦しい貴族社会とシビアな婚活、奴隷制度撤廃への熱い思いからロマンスまで、盛りだくさんな内容だがすべてに渡ってバランスのとれた物語で、見終わると清々しい気分になれた。脇をかためた英国の名優らも素晴らしかったが、主演を演じたバサ=ローが自然でとりわけ良かったように思う。ぜひ、日本でも公開して欲しい一作だ。

上映時間:1時間44分。米国内ではiTune Movie 等で視聴可能。
英語公式サイト:http://www.belle-themovie.com/#/