"A Most Wanted Man" (邦題『誰よりも狙われた男』)


"A Most Wanted Man" 写真クレジット:Lionsgate
ドイツ、ハンブルグ密入国したチェチェン出身のイッサ(グレゴリー・ドブリギン)は、イスラム過激派として国際指名手配されている男だった。彼は知人宅に身を寄せ、ドイツへの亡命を希望。人権派弁護士アナベル・リヒター(レイチェル・マクアダムス)と出会い、銀行家ブルー(ウィレム・デフォー)に連絡を取りたい言う。イッサのロシア軍人だった父が遺した莫大な遺産がブルーの銀行に預金されていると言うのだ。
同じ頃、ハンブルグで精鋭を集めたテロ対策ユニットを率いるベテラン諜報員ギュンター・バッハマン(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、人気の高いイスラム教徒の学者とアルカイダとの関係を追っていた。そしてイッサの密国を知るとアナベルを拉致して、彼女を懐柔しようとする。

物語はバッハマンを中心に据えているが、そこにイッサが欲しいロシアと米国が加わって事態が複雑化していく。三国の狙いのズレが緊張感を生んで、最後の最後まで先が読めない第一級のエンターテイメント、スパイ・スリラー作品だった。

原作は『裏切りのサーカス』のジョン・ル・カレ、『ナイロビの蜂』など元英国の諜報員だった経験を生かしたスパイ小説を多く書いているこのジャンルの大御所である。脚本は『ランタナ』を書いたオーストラリアのアンドリュー・ボーヴェル、監督は『ラスト・ターゲット』のアントン・コービン、オランダ人だ。

裏切りのサーカス』も同様だったが、本作にはスパイもの独特のアクションはほとんどなく、各国の思惑、諜報員同士の頭脳戦/心理戦が謎めいた展開と共にスリリングに描かれていく。
他国の介入を意識しながら、忍耐強く計画を達成しようとするバッハマンの姿を追っていく内容で、ホフマンが煙草と酒浸りの諜報員役で会心の演技を見せている。本年初頭に亡くなった彼の最後の主演作、何を演じても巧い人だったが本作の彼は絶品だ。

本作を観る限り、諜報員の実態に007のようなカッコ良さなどなく、地味でサエない男たちの緻密な活動があるだけなのだろう。イスラム過激派に対して、米独露のテロ対策とその解決の仕方もまったく違って一枚岩ではないようだ、というようなことは分かるが感心もしないし、うれしくもない。

9/11以来「テロリスト」を扱う映画が増えたと思うが、戦争はテロではないのだろうか。軍隊をもって他国に侵攻することもテロ=恐怖という本来の意味からすると、テロではないか。国が実行するテロは「正当」で、小組織や個人がするテロは「悪」なのか。どんなテロも悪であり、戦争は最大のテロ、最大の悪である、と思えてならない。

上映時間:2時間1分。日本では10月17日より劇場上映開始。米国は近日中にDVD発売、オンライン・ストリーミング開始予定。

"A Most Wanted Man" 英語公式サイト:http://amostwantedmanmovie.com/
誰よりも狙われた男』日本語公式サイト:http://www.nerawareta-otoko.jp/