"Gone Girl"(邦題『ゴーン・ガール』)


ゴーン・ガール』写真クレジット:20 Century Fox
舞台はミズーリ州の田舎町。5回目の結婚記念日の朝、ニック(ベン・アフレック)が外出から戻ると、妻エイミー(ロザムンド・パイク)が消えていた。家の中は争った形跡があり、警察に届けると失踪事件として捜査が始まる。
町民総出で彼女の捜索をするが手がかりは無し。メディアを使い、美しい妻の失踪を悲しむ夫として情報提供を訴えるダンだが、捜査の矛先は次第にダンへと移っていく。
マスコミも事件後に撮られた女性支援者との写真で笑みを浮かべるダンを取り上げ、彼への疑惑を煽る報道を繰り返す。次第に明らかになっていく夫婦の不仲、しかもダンには秘密があった。

ソーシャル・ネットワーク』や『ドラゴン・タトゥーの女』などダークなミステリー映画のヒット作を作り続けるデヴィッド・フィンチャー監督の最新作だ。12年に出版された人気ミステリー作家ギリアン・フリンの同名小説の映画化であり、本作のミステリーはズバリ「夫婦」である。

大きな家に暮らし一見理想的に見える美しく仲の良い夫婦の内実。裕福な妻の金に依存する暮らしを送っていた二人だが、夫の心は冷め、すでに離婚を決めていた。そんな頃に妻が失踪。夫はマスコミの餌食となって疑惑から逃げ回る被害者となるが、限りなくグレーだ。

後半になって物語は一転し、妻の側から夫婦生活が語られる。そして物語はさらなる二転三転を経て、思わぬ着地点に到達する。

フィンチャーらしい紆余曲折ではあるが、噓だらけの夫婦の実態を書き込んだ原作者フリンの脚本によるところが大きい気がする。つまりフィンチャーらしさが希薄なのである。

フィンチャーは陰惨な犯罪や不可解でやや病的な主人公らが登場する世界を、透徹に、緊張感を持続させながら描くことに才気を発揮してきた。物語がダークであればあるほど、暗黒世界にかすかにほの見える人間性の灯火が際立つ、という作風である。

本作の舞台は見目の良い夫婦の生活。ダークな面は次第に明かされてはいくが、夫婦間の誤解や醒めていく愛情など現実感があり過ぎて、後半の展開が唐突だ。捜査やマスコミが迷走する前半のダントツの面白さに比して後半は別物、安直に作られたTVドラマの印象である。

なぜこの夫婦は一緒にいるのか? 夫婦には他人は分からない大きな謎がある。犯罪世界などとは比べものならない暗い人間の穴を覗くような怖さもあるに違いない。フィンチャーはそれを描こうとしたではないだろうか。だが、作り過ぎた物語に阻まれて嘘っぽさが鼻についてしまった。こういう話なら彼が監督する必要は無かったという気もする。もっと平凡な物語を通して、夫婦の謎に再度挑戦して欲しい。

上映時間:2時間25分。全米のシネコン等で上映中。日本では12月12日から劇場公開開始。
"Gone Girl" 英語公式サイト:http://www.gonegirlmovie.com/
ゴーン・ガール』日本語公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/gone-girl/