"Beyond the Lights" (原題『ビヨンド・ザ・ライト』)


"Beyond the Lights" 写真クレジット:Relativity Media
人気の頂点にいるポップアイドルのノニ(ググ・バサ=ロー)は、ビルボード音楽賞を受賞した晩、ホテルで自殺を図ろうとする。だが、現場にいた警備の警官カズ(ネイト・パーカー)の懸命な説得で翻意した。ノニを一人で育ててきたマネージャーの母(ミニ・ドライヴァー)は、自殺未遂を隠すためにマスコミを集め、事故だったとノニとカズに会見させる。
カズは父(ダニー・グローバー)の期待を担って政治家を志しており、嘘をついたことを恥じる。ノニはそんな誠実なカズに惹かれ、彼を追いかけ始める。カズは積極的な彼女に戸惑いつつ、虚像を生きるノニが必死に自分らしさを取り戻そうとする姿に打たれ、二人は恋に落ちていく。

人気アイドルと警官の恋なので障害も多く、ロマンスものの王道を行く設定ではあるが、恋愛映画としての奥行きは深く、完成度の高い秀作だ。このジャンルにつきものの恋の駆け引きや誤解と離反といったゲーム性がなく、二人の恋が真っ直ぐに深まっていく。
MTVなどのポップカルチャーに親しむ若い世代に向けられて作られた作品だろう。恋愛はゲームではなく互いの人生を変え、深い影響を与え合える出会いになり得るのだ、というポジティブな恋愛像を描き出している。

脚本/監督は『リリィ、はちみつ色の秘密』のジーナ・プリンス=バイスウッド。米国では数少ないアフリカ系女性監督で、自分への信頼とデキリケートな感性を持つ素敵なアフリカ系女性の姿を描いてきた。ポップカルチャーの中で洪水のように溢れる過剰にセクシュアルなアフリカ系女性のイメージが、少女たちに与える影響を意識して映画作りをしている人ではないかと思うが、説教臭さは微塵もなく、彼女の作品はどれも面白い。

主演二人の好演も本作成功の鍵になっている。とりわけ、ボップスターからシンガーへと変貌を遂げていくノニを演じたバサ=ローが素晴らしく、前半ではビヨンセ風に歌い踊って驚かせてくれた。英国王立劇芸術院出身、訓練の賜物なのだろうか。

監督が無名の英国人バサ=ローを主演に選んだ時点で、大手ハリウッド映画会社が製作から手を引き、予算がかなりカットされたようだが、バサ=ローで正解だった。製作にはBlack Entertainment Television が加わり、アフリカ系女性へのイメージを変えて行こうという意思が感じられる。

作中バサ=ローがニーナ・シモンBlack Birdが歌うシーンがある。初めて聞いたが心に染み入る歌詞で、こういう歌を少女たちに聞かせたいという監督の強い思いが感じられた。

上映時間:1時間56分。
"Beyond the Lights" Facebookサイト:https://www.facebook.com/BeyondTheLightsMovie