“Cinderella”(邦題『シンデレラ』)


『シンデレラ』写真クレジット:Walt Disney Studios Motion Pictures
裕福な商人の娘エラ(リリー・ジェームズ)は優しい父と母の愛に包まれ暮らしていたが、母が病に倒れ、「勇気と優しさを持って生きない」と言い残して逝ってしまう。父は再婚し、新しい母(ケイト・ブランシェット)と二人の娘(ソフィー・マクシェラ、ホリデイ・グレインジャー)がエラの家で暮らし始めた。
だが父も旅先で逝き、エラはいつの間にか継母に使用人として扱われ、義理の姉妹からは「灰かぶり=シンデレラ」と呼ばれるようになる。そんな頃エラは森で狩りをする青年キット(リチャード・マッデン)と出会い、再会を約束する。

アナと雪の女王』や 『マレフィセント』(http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20140702)を通して、古い女の幸福像を打ち壊す新解釈を送り出したディズニーの新作、本作ではどんな新解釈が?と期待したが、まったくの肩透かし、直球のシンデレラであった。

おなじみの物語設定を英国風にして、俳優は名優デレク・ジャコビやヘレナ・ボナム=カーターなど英国人を中心に配し、セットから衣装まで贅沢な設えにして、童話世界をくっきり再現している。監督はシェークスピア俳優としても知られるケネス・ブラナー、脚本は『アバウト・ボーイ』のクリス・ワイツだ。

サンディ・パウエルの斬新でゴージャスな衣装や、英国の花柄プリントの愛らしさ、壁紙から小物に至るまで細部に洗練されたセンスを生かしたセットデザインなど、ファッションやインテリアに興味のある人には目福。
かぼちゃが馬車に、ボロドレスが輝くドレスに変身する特撮にも魅了された。しかし、映像の持つ陶酔感があればあるほど、本作の旧態依然とした価値観が気になった。

テーマは勇気と優しさらしいが、虐められても笑顔で我慢していれば、いつか素敵な王子様があなたを見つけ出して幸せに…というメッセージしか届かない。これなら98年にドリュー・バリモア主演した『エバー・アフター』 の方がずっと勇気と優しさに溢れていた。

継母がエラに「なぜそんなに意地悪なの?」と聞かれ「最初の夫が死んだ後は Unhappy Ever After (末長く不幸せ)だったから」と白状したことは評価したい。だが、継母もかつてはエラのような無垢な女だったが、男がいなくなって意地悪になったということなのか。この苦味も古めかしく、アナ雪姉妹のハッピーさのかけらも見出せない。一体この映画を誰に見せるつもりで作ったのだろう? 

シンデレラ幻想と時代錯誤を気にせず、本作の毒々しい美しさを楽しめる人は多いかもしれない。だが、それは毒とわかりつつ食べてしまう添加物たっぷりのスイーツの甘美な味わいに似ていないだろうか。甘さに仕込まれた古い毒。そんなものを、幼い女の子や少女に食べさせたいとは思えないはずだ。

上映時間:1時間45分。
“Cinderella”英語公式サイト:http://movies.disney.com/cinderella/
『シンデレラ』日本語公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/cinderella.html