"Song of the Sea"(原題 『ソング・オブ・ザ・シー』)


"Song of the Sea" 写真クレジット:GKIDS
現代を舞台に古いケルトの民話を描いた幻想的アニメーション。10年に『ブレンダンとケルズの秘密』(http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20100531)を作ったアイルランドの監督トム・ムーアの作品で、アイルランド、ベルギー、デンマークのアニメスタジオが参加している。脚本はウィル・コリンズとムーア。
兄ベンと妹シールシァは灯台守りの父(声:ブレンダン・グリーソン)と3人暮らし。優しい母親はシールシァを産んですぐに海に消え、以来寂しいベンは、まったく喋らない妹に意地悪ばかりだ。
シールシァの6歳の誕生日の晩、彼女は白い光に誘われて、母が残した白い毛皮を見つけ、それを身につけ海に。アザラシたちと楽しい時間を過ごしたのち、岸辺に打ち上げられる。
それを見た祖母(声:フィオヌラ・フラナガン)は心配し、自分の住む町に兄妹を強引に引き取ってしまう。海が恋しいシールシァが巻貝の笛を吹くと3人の風変わりな妖精が現れ、シールシァがアザラシの妖精セルキーだと言うのだった。

ここから先は白い光を追いかける兄と妹の幻想的な冒険が、目に優しい色彩と不思議な造形と共に描かれていく。語りかけるように歌うアイルランドのリサ・ハニガンが歌う主題歌も作品世界にぴったり。水彩画の滲みを生かした空や雲を背景に、平面的な線画で描かれる大きな目の子供たちやアザラシが愛らしく、良質の絵本を読んでいる感覚。同時にジブリアニメの影響を強く感じた。

白い光の粒は『隣のトトロ』や『もののけ姫」を、夜の海は『崖の上のポニョ』を、空を疾走する犬は『千と千尋の神隠し』など数え上げるとキリがない。しかし、その表現が単なるマネではなく、ジブリを愛する作り手の中で消化され、まったく別のケルトの物語として生まれ変わっているところが素晴らしい。

人間の男に皮を盗まれて、彼の妻になるというアザラシの妖精セルキーの伝説は、アイルランドに今でも伝わるようで、羽衣を隠した男の妻になって子をなす日本の天女の伝説「羽衣伝説」を重ねることもできて面白い。

後半になって、ケルト神話に登場する女神マッハや海神マナナーン・マク・リールも登場して、伝説世界がさらに拡がり、想像力の翼を大きく広げた美しいエンディグへと向かっていく。大人と子供が一緒にみて楽しめるアニメとしてぜひ推薦したい。

上映時間:1時間34分。上映時間:1時間34分。
"Song of the Sea" 英語公式サイト:http://www.gkidsfilms.com/song/