"Mad Max: Fury Road"(邦題『マッドマックス 怒りのデス・ロード』)


マッドマックス 怒りのデス・ロード』写真クレジット:Warner Bros.
文明滅亡後の近未来。砂漠化した「ウェイストランド」で、イモータン・ジョー(ヒュー・キース・バーン)は残り少ない水と石油を独占し、凶暴な「ウォーボーイズ」を使って人々を支配をしていた。ジョーの支配に反旗を翻すフュリオサ(シャーリーズ・セロン)は、彼の妻5人を引き連れ、要塞「シタデル」から巨大なタンカーで逃亡する。

「ウォーボーイズ」の軍団は、捕らえていた一匹狼マックス(トム・ハーディ)を車両の先端に括りつけ、彼女らを追撃。マックスは命からがら逃亡に成功し、戦闘を重ねながら逃亡を続けるフュリオサと合流し、彼女が目指す生まれ故郷「グリーン・プレイス」へ向かうことに。

軍団のトラックの前部には無数のスピーカーと火を噴くギターを抱え絶叫するロッカー、続く巨大な太鼓を叩く一団、長い竹ざお風の先には血に飢えたウォーボーイズがぶら下がり、追撃戦というよりお祭り騒ぎだ。
そんなユーモアに加え、斬新なデザインの近未来武装軍団の造形と、赤や黄が強調されたビビッドな映像に圧倒され、口の中が砂漠の砂でジャリジャリする錯覚を覚えた。

まさか、こんなに入り込める極上の映画作品だと予想だにしていなかった。醜怪な悪人たちによる激しいバイオレンスとアクションの連続だが、戦う主体が女だとこんなに違うものなのか。
否、主体が女だったからだけはない。幼な顔で大きな胸を持つ「女戦士」がゲーム内で戦ってもワクワクのワクもしないが、フュリオサがマックスに殴りかかる場面では胸が躍った。筋肉質のハーディを、素手で倒せると思わせてくれたセロンの肉体的説得力がうれしかったのだ。主役は彼女、マッドフュリオサだ。

キル・ビル』のブラック・マンバに始まって以来、『ハンガー・ゲーム』のカットニス、『アベンジャース』のナターシャ・ロマノフ、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』リタ・ヴラタスキなどなど、女戦士が男と斬り合い、肉体的に戦う姿を描いたアクション映画は数多く作られてきた。
それぞれの戦闘シーンにはそれなりの説得力はあったが、『エージェント・マロリー』を演じたジーナ・カラーノを除いて、どの俳優たちもどこか特撮によって作り上げれられた戦士という感じは否めなかった。
しかし、本作のフュリオサ/セロンは違っていた。セロンはシャネルのCMにも出るモデル体型の美人であるが、本作での荒れ方は尋常では無く、彼女が見せてくれた渾身の殴り合いは、私の記憶にくっきりと焼きこまれた。

細身で美貌のジョーの妻を演じた女優たちも、男性観客へのサービス的薄布をまといつつ、リアルな戦い方をしていたし、後半に登場する女性たちも素敵だ。シリーズ全作の脚本/監督をしてきたジョージ・ミラーは、『マッドマックス』を隠れ蓑に、新しい映画を作ろうとしていたのだろう。本作の女性像に関して『ザ・ヴァジャイナ・モノローグス』の作者/演者イヴ・エンスラーの助言を得ている。また編集にはミラーの妻マーガレット・シクセルを使い、アクション映画編集は初の女性を起用することで今までとまったく違ったアクション映画を目指したという。

『マッドマックス』シリーズに金を出したつもりの出資者たちは驚いたかもしれないが、シリーズ一番の大ヒット。5月のカンヌ映画祭の記者会見では、男の記者がマックスが脇役になっていることへの不満を述べていたが、ハーディが「別に気にならないね」と軽く返す一場面もあって、話題には事欠かない作品でもある。

上映時間:2時間。全米のシネコン等で上映中。日本でも上映中。
"Mad Max: Fury Road" 英語公式サイト:http://www.madmaxmovie.com/
マッドマックス 怒りのデス・ロード』日本語公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/madmaxfuryroad/