“Spy”(原題『スパイ』)


写真クレジット:Twentieth Century Fox Film Corporation.
6月の公開1週目で興行成績1番に躍り出たメリッサ・マッカーシー主演のスパイ・コメディで、批評家の評価も上々。ヒットした『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』で注目を浴びて以来、マッカーシーの主演作でベストワンは本作が初なので、彼女の代表作になるだろう。
主人公は、ハンサムなスパイ、ブラッドリー(ジュード・ロウ)を助ける凄腕のアナリスト、スーザン・クーパー(マッカーシー)。しかし、ブラッドリーは核兵器を隠し持つ武器商人のレイナ(ローズ・バーン)に殺されてしまう。
彼の亡き後、核兵器の所在を探すため、レイナに顔の知られていないスーザンが覆面スパイとなってパリへ。ところが、自信満々のハードコア・スパイ、リック(ジェイソン・ステイサム)は、彼女の潜入に不満を持ち、潜入先に出没しては嫌味を言いまくるのであった。

オープニングからテーマ曲まで『007』シリーズの臆面もないパクリで始まるが、本作の大きな見どころはマッカーシーとステイサムの丁々発止の舌戦だ。無口なアクション・スターのイメージが定着しているステイサムだが、本作では自らをパロって「オレは怖いものなしなのダ」の大ボラ話を吹きまくってマヌケぶり全開。たぶん彼の主演作5本分ぐらのセリフを喋っていたのではないだろうか。絶妙な配役だ。

絶妙と言えばお高く止まった嫌味な女役が板についてきたバーンも適役で、スーザンに意地悪爆弾を炸裂させる。しかし、どの舌戦も邪気がないところが本作の良さで、こういう笑いは希少。監督のポール・フィグの脚本に負うところが大きいだろう。

マッカーシーとフィグのタッグは『ブライズメイズ』に始まって3作目。毒気のない舌戦の楽しさは前ヒット作『デンジャラス・バディ』でも証明済だが、マッカーシーを荒っぽい刑事として描き過ぎて楽しさが半減していた。

しかし、本作はグレードアップ。彼女を有能で洗練されたスパイと設定し、周囲からはボコボコにされても自虐に陥ることなくはね返し、最後まで楽しく笑わせてくれる。また、スーザンの塩辛いボス役を演じたアリソン・ジャニーや、すっとんきょうな同僚を演じた英国の人気コメディアン、ミランダ・ハートも共にベテランらしい達者な笑いを提供、マッカーシーを盛り上げていた。

主人公の大きな体の滑稽さで笑わせるドタバタ・コメディが多い中で、フィグの演出はその難を避け、マッカーシーのコメディアンとしての最良の部分を引き出すことに成功したと言えるだろう。二人の次回作が待たれてならない。

上映時間:1時間57分。全米のシネコン等で上映中。
Spy”英語公式サイト:http://www.foxmovies.com/movies/spy