“Jimmy’s Hall”(邦題『ジミー、野を駆ける伝説』)


『ジミー、野を駆ける伝説』写真クレジット:Sony Pictures Classics
1932年のアイルランド20年代の英国から独立戦争と講和成立その後の内戦を経て、米国に暮らしていた社会主義者ジミー・グラルトン(バリー・ウォード)が里帰りした。
一人で暮らす高齢の母アリス(アイリーン・ヘンリー)を助けるための帰国で、結婚し子供もいる元恋人のウーナ(シモーヌ・カービー)とも再会を喜びあった。また彼を知る元同士や村人、若者は彼の帰国を大歓迎、彼らの熱意はかつて音楽やダンス、学習の場としてジミーが建てたホールの再建へと繋がっていく。しかし、村で強い力を持つシェリダン神父(ジム・ノートン)らは、彼らの活動を苦々しく見つめていた。


ジミーは実在の人物で、この活動によってアイルランド人で唯一国外追放となったことで知られるが、彼の記録はあまり残っていない。そんな歴史に埋もれた活動家を生き生きと画面に蘇らせたのは英国の名匠ケン・ローチ監督だ。
アイルランド独立や労働運動、底辺で生きる人々を多く描いてきた彼らしい作品で、彼がカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した06年の名作『麦の穂をゆらす風』(http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20070425)で描かれた時代の10年後の物語である。

『麦の穂…』は悲劇的な結末で終わったが、本作は美しいアイルランドの農村地帯を背景に、平穏ながらも圧迫や不自由を感じる素朴で実直な村人たちの意見や、ホールでの活動を描いた清々しさが印象に残る作品。月の夜に静かにダンスするジミーとウーナのロマンスも節度を持って描かれ素敵だ。

ローチ監督は『天使の分け前』などのコメディにも優れた手腕を発揮してきた人なので、歴史的ドラマといっても堅苦しさ説教臭さはない。とはいえ主人公たちが問題をめぐって論戦するのもローチ作品の特徴で、本作でも村人たちがホールへの弾圧をめぐってどう対処すべきかを大いに論争。無口なジミーの母もしっかり意見を述べて頼もしく、『麦の穂…』でも女性が強い発言権を持っている場面が何度も登場、実に面白い。

この面白さはポール・ラヴァティの脚本に負うところが大きい。彼はローチ監督と何度もタッグを組んでおり、本作でもジミーの従兄弟の孫たちにインタビューをして、彼らに代々語り継がれてきたジミー像を元に脚本を練り上げていったようだ。

シェリダン神父が「神か?グラルトンか?」と思わず唸る場面があったが、神と並ぶほどに村人から熱烈な支持を得たジミーは、自己の名声や金、野心とは無縁の無私の人だったようだ。そんなジミー像に大きな間違いはないのだろうが、難を言えばもう少しだけ彼の人間としての影の部分が描かれていたら、さらに立体感のある人物像になったのではないか、という気がしてならなかった。

上映時間:1時間46分。全米各地で順次上映中。
“Jimmy’s Hall”英語公式サイト:http://sonyclassics.com/jimmyshall/
『ジミー、野を駆ける伝説』日本語公式サイト:http://www.jimmy-densetsu.jp/