“Inside Out” (邦題『インサイド・ヘッド』)


インサイド・ヘッド』写真クレジット:ウォルト・ディズニー・スタジオ
11才のライリー(ケイトリン・ディアス)は、父の転職のためミネアポリスからサンフランシスコに引っ越してきた。古ぼけた小さな家に住むことになり、ちょっと不安なスタート。でも明るい気持ちで新しい学校行くが、自己紹介をする時になって、なぜか涙が溢れて言葉が出ない。
そんな彼女の頭の中を覗いていみると、ヨロコビ(エイミー・ポーラー)、カナシミ(フィリス・スミス)、イカリ(ルイス・ブラック)、ビビリ(ビル・ヘイダー)、ムカムカ(ミンディ・カリング)の5つの感情が大慌てしていた。しかも、頭の司令室からヨロコビとカナシミが放り出されてしまい、楽しかったライリーの世界が少しづつ崩れ始めていく。

元気発剌とした少女が、それまで持っていたたくさんのヨロコビを失うカナシミを体験し、次第にその大切さを知っていく過程を楽しい冒険ファンタジーとして見せてくれるアニメの傑作だ。オリジナリティ溢れる造形力と想像力、さすがピクサーと感心した。

アクティブに活動するカラフルな5つの感情とともに、5色のメモリーボールとそれを貯蔵する膨大な記憶倉庫、心に刻まれた貴重な体験は司令部で大切に保管など、感情と記憶世界の造形が卓抜している。
ヨロコビたち迷い込む "reality distortion field”(亡き社長S. ジョブ氏の無理難題の別名)の抽象化過程の卓越したおかしさや、ベケットの『ゴドーを待ちながら』や映画『チャイナタウン』の名台詞などをちりばめる絶妙なタイミングなど、洗練された笑いと工夫がぎっしり詰まり、大人も充分楽しめる作りになっている。

共同監督/共同脚本は『モンスターズ・インク』『カールじいさんの空飛ぶ家』のピート・ドクターで、彼の明るかった娘が11才の頃に不機嫌になってしまった体験から本作の着想を得た。多くの心理学者の助言を得ながら、スタート時には27もあった感情を整理して5つの感情に絞ったという。

日本では似た設定の人気コミックの映画化『脳内ポイズンベリー』が公開中で、本作を日本のコミックのパクリだという意見もある。確かに設定は酷似しているが、30才の女性の恋愛をテーマにした『脳内…』と脳内世界をカラフルなアニメとして造形した本作の違いは大きく、なによりも出発点に父親である監督の娘の成長への問いかけがあったことは見逃せない。

本作にドクター監督の前2作にはない完成度の高さがあったのは、ごく平凡な少女の世界を描きながら、子供の体験を見下したり、最大公約数的な表現に陥ることなく、彼女の成長の痛みを愛情を持って見つめる視点が感じられたことにある。

ハッピーであることばかりが強調される文化の中で、悲しみの感情にきちんと寄り添っていくことの大切さを伝えるメッセージは、父親が娘に贈る最良のギフトと言えるのではないだろうか。

上映時間:1時間34分。シカゴはシネコン等で上映中。
“Inside Out”英語公式サイト:http://movies.disney.com/inside-out/
インサイド・ヘッド』日本語公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/head.html