"Zero Motivation" (邦題『ゼロ・モチベーション』)


"Zero Motivation" 写真クレジット:Zeitgeist Films
日本では安保法案が成立し、その反対運動の盛り上がりの中で徴兵制についての論議も出ていたと思うが、本作はイスラエルの徴兵による兵役の現実を、タイトル通り「やる気ゼロ」の若い女たちの日常を通して描いた出色のフェミニスト・コメディ。
女の子たちが仕方なく兵役に服している脱力状態がリアルで、鬼のイスラエル国防軍の隠れた一面を垣間見せ、去年のトライベッカ映画祭で最優秀作品賞、ノーラ・エフロン賞を受賞している。

砂漠地帯の軍施設にある管理事務所で働くゾハー(デイナ・イヴギー)とダフィ(ネリー・タガー)は、毎日の事務仕事にウンザリ。ゾハーはTVゲームに熱中して憂さ晴らし、書類のシュレッダー係を任ぜらたダフィは退屈で死にそうだとホチキスで自殺の真似事だ。彼女は大都市テルアビブの基地へ行きたくて、転属依頼を出し続けている。

そんな彼女らの上司であるラマ(シャニ・クライン)は、軍での昇進を目指してやる気満々だが、やる気ゼロの女子たちは恋愛話などに盛り上がり、ラマは手こずっていた。

まだ軍事訓練を受ける前の状態だと思うが、夜警を任じられて、不審者が見たらどうすると聞かれた仲間の一人は「叫ぶ」と返答するし、ダフィが泣きながら転属願いを訴えに行った女性上官の部屋には空気の抜けたピンクのクマちゃん風船が飾ってあるありさまで、軍隊にいる緊張感ゼロだ。

私が知る限りずっと戦争している軍事大国イスラエルでは、男女共に高校卒業後に兵役があり、男性は3年、女性は1年9ヶ月間の兵役期間がある。つまり毎年何万人かの若者たちが軍に送られている計算になるが、兵役の実態はユルユルのグズグズ、軍事費の無駄使い?という気にさせられる内容だ。

本作が初長編監督作品となったイスラエルの30代の女性監督タリア・ラヴィーにも兵役体験がある。軍のオフィスで秘書の仕事していた時の体験を元に、兵役体験のある若い女たちの何十人かにインタビューをして脚本を書き上げた。ラヴィーによると兵役中に戦闘地に行かない兵士が大多数だという。本作がイスラエル軍の実態を正確に伝えているかどうかは分からないが、風刺劇としては充分面白く、おかしくて仕方なかった。

イスラエル軍というと、9月に無防備なパレスチナ若い女性を兵士が射殺した悲惨な事件が記憶に新しいが、本作がイスラエル軍をユーモラスに描いたことで不謹慎であると批判をする人もいる。だが、私はむしろこの脱力・無気力感の表現にこそに意味があると思った。イスラエル軍と言えども鉄壁ではなく、穴だらけの現実を知ることは意味がある。

主人公らの徹底したやる気の無さには、「軍隊なんかドーデモイイのだ」という戦争の大義、権威への無関心と無視が根底にある。イスラエル軍は裸の王様、軍隊なんかでダラダラしてる位なら、恋もおしゃれもしたいし、セックスもしたい、でなぜ悪い? 戦争なんかよりずっと良いではないか。
最後近く、やる気満々だったラマが、男の上官から昇進を拒絶され退役するくだりもあって、マスマスやる気が失せるのある。

上映時間:97分。
"Zero Motivation" 英語公式サイト:https://zeitgeistfilms.com/film/zeromotivation