“Youth” (原題『ラ・ジョヴィネッツァ』)


“Youth”写真クレジット:Fox Searchlight Pictures
引退した作曲家フレド(マイケル・ケイン)は、スイスの豪奢なスパで、親友の映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)と過去や人生を語りあう優雅な休暇を過ごしていた。そんなフレドの元に英国女王の代理が彼の作曲したオペラの指揮をして欲しいと訪ねてくる。
一方、やる気満々のミックは若い脚本家らと彼にの次回作を執筆中。そこへフレドの娘レナ(レイチェル・ワイズ)と結婚しているミックの息子が現れ、レナと別れて別の女と結婚したと報告、取り乱したレナもスパにやってきて、男達の静かな時間に波紋が広がる。

『グレート・ビューティー/追憶のローマ』でアカデミー外国語映画賞を受賞した監督パオロ・ソレンティーノの最新作。イタリアの名匠F. フェリーニ監督に強く影響を受けた人で、ゴージャスな映像で観るものを魅了する今やイタリアを代表する映画監督の一人である。

本作でも脚本と監督を担当、『グレートー…』同様に直線的な物語性はなく、雄大なスイスの美しい景観を背景に、80代の主人公らの周辺に起きる小さな出来事が点描されていく。ベテランの撮影監督ルカ・ビガッツィの映像は映画館でこそ堪能できる素晴らしさだ。

引退に固執するフレドと返り咲きを狙うミックを対象させながら、功成り名を遂げた二人の男たちが老境の中で何を思い、感じているのか。
ミス・ユニバースが全裸でスパに現れ、思わず「神だ」と囁いてしまったり、毎日の排尿状態を報告しあったり、生殖能力に象徴される男性性の喪失感がコミカルに描かれる。
ケインとカイテルの老練で息のあった演技は観ていて楽しく、可笑しくもあるのだが、内容的にはフェリーニに代表される古典的イタリア映画に顕著なマチズモ、男性優位主義の継承という印象だ。

ソレンティーノはまだ40代だが、『グレートー…』では60代、本作では80代の男性を描いている。現代のスピード感は苦手、自分はシリアスな人間なのでツイッターはしない、と言う監督。老成した男の中に不変さを見出しているだろうか。しかし、その不変さが前時代的遺物である側面も否めない。

後半に登場するジェーン・フォンダが強烈な存在感で、そんな世界にケリを入れる。監督がそれを意識していたかどうかは分からないが、少なくとも筆者にとっては本作の極上の味わいはこの場面にこそあった。

上映時間:1時間58分。全米で順次劇場公開中。
“Youth”英語公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/Youth/