“Dough” (原題『ドゥ』)


『ドゥ』写真クレジット:Menemsha Films
ロンドンで父の代からユダヤ系ブレッドを作り続けてきたナット(ジョナサン・プライス)の店に危機が迫っていた。大家が店をスーパーのチェーンに売るというのだ。そんな頃、アフリカのダルフール紛争から逃れ、母と二人で移民してきた少年アヤーシュ(ジェローム・フォールダー)が、ナットの店を手伝うことに。
貧しい彼はマリファナの売人もしており、誤って店のパン種にマリファナを混ぜたのをきっかけに、ナットに内緒にマリファナ入りのパンを売り始める。これが大成功となって店には長蛇の列ができるようになるのだが…。

人種のるつぼロンドンのイーストエンドを舞台にしたヒューマニティ溢れるコメディの秀作。敬虔なユダヤ教徒の老人と毎日礼拝を欠かさないイスラム教徒の少年が、始めは互いに偏見をむき出しするが、次第に力を合わせ、それぞれの危機を乗り越えていく。

ナットに気のある大家(ポーリン・コリンズ)や彼に敵愾心を向けるスーパーチェーンのオーナー(フィリップ・デイビス)、少年を追い詰めるドラッグディーラー(イアン・ハート)など、英国のベテラン俳優たちが善玉悪玉の役割をしっかりと担って、物語がトントンと進んでいく。

彼ら以外にもアヤーシュの母やナットの孫など脇を固める登場人物がたくさん登場するが、役割が明快で混乱がなく、英国は市井の人を集めたコメディを作ると巧いなあと感心した。

監督は英国のベテラン、ジョン・ゴールドシュミット。ユフダ・ジェズ・フリードマンの書いたオリジナルを元に、ジョナサン・ベンソンと共同で何度も脚本の推敲がなされたようだ。

犬猿の仲というイメージのあるユダヤ教徒イスラム教徒が助け合うというプロットは、下手をすると嘘くさく感じられるが、偏見を理屈ではなく、パンとマリファナを仲介に乗り越えていく着想がスマートで、長年の対立を乗り越えたいという作り手の思いがスムーズに伝わってきた。コメディだからこそ表現できた思いではないだろうか。

ナット一家の堅苦しいディナーで、それとは知らずマリファナ入りのパンを食べ、食卓が笑いに包まれる微笑ましさなど、マリファナへの肯定感のあるシーンが何度か登場。ユダヤ教徒イスラム教徒作ったパンの絶妙な味わい、こんなパンなら食べてみたいと気にさせられた。

上映時間:1時間34分
“Dough”英語公式サイト:http://www.menemshafilms.com/#!dough/gbrbp